使用者が就業規則中の「女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができる。そのうち年間二四日を有給とする。」との規定の後段を「そのうち月二日を限度とし、一日につき基本給の一日分の六八パーセントを補償する。」と一方的に変更した場合において、右変更が合理的なものであるか否かを判断するに当たつては、変更の内容及び必要性の両面からの考察が要求され、右変更により従業員の被る不利益の程度、右変更との関連の下に行われた賃金の改善状況のほか、有給生理休暇の取得についての濫用の有無、労働組合との交渉の経過、他の従業員の対応、関連会社の取扱い、我が国社会における生理休暇制度の一般的状況等の諸事情を総合勘案する必要がある。
就業規則における生理休暇規定の一方的不利益変更の合理性判断の基準
労働基準法89条
判旨
就業規則の不利益変更は、原則として許されないが、変更後の規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者の同意がない場合でもその適用を拒むことはできない。その合理性は、不利益の程度、変更の必要性、賃金の改善状況、交渉の経過等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。
問題の所在(論点)
労働者の同意なく就業規則を労働者に不利益に変更する場合、その効力が認められるための要件および判断枠組みが問題となる(労働契約法10条の法理の形成過程)。
規範
就業規則の変更により労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは、原則として許されない。しかし、当該変更が「合理的」なものである限り、個々の労働者は同意の欠如を理由にその適用を拒めない。合理性の有無は、①変更により従業員が被る不利益の程度、②変更の必要性、③変更に関連して行われた賃金改善等の代償措置の状況、④労働組合等との交渉の経過、⑤他従業員の対応や社会情勢等を総合考慮して判断する。
重要事実
会社(上告人)は、従来「年間24日まで有給」としていた生理休暇規定(旧規定)を、組合の同意を得ないまま「月2日を限度とし基本給の68%を支払う」という内容(新規定)に変更した。これにより、従業員(被上告人ら)は生理休暇を取得すると基本給が減額される不利益を被ることになった。原審は、実質賃金を低下させる不利益変更は一方的に行えないとして、新規定の効力を否定し、賃金の差額支払を認容した。
あてはめ
本件において、原審は「長期的な実質賃金の低下を生ずる変更はそもそも許されない」との見解に立ち、変更の合理性を一切検討せずに新規定の効力を否定した。しかし、旧規定の下で有給生理休暇の「濫用」があり社内規律保持の必要があったか、賃金改善が併せて行われたか、組合との交渉経緯はどうか等の具体的諸事情を検討すべきであった。これらの「合理性」に関する実質的な審理を尽くさずに、不利益性のみをもって直ちに無効とした原審の判断には、法令の解釈適用の誤りがある。
結論
就業規則の不利益変更は、変更内容が合理性を有する場合には有効となり得る。合理性の有無を検討せずに変更を無効とした原審を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
秋北バス事件大法廷判決の法理を維持し、不利益変更の有効性を「合理性」という枠組みで判断することを再確認した事案である。答案上では、現在の労働契約法10条の解釈として、同条に掲げられた各要素(不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、交渉の状況等)に事案の事実をあてはめる際の基準となる。
事件番号: 平成4(オ)2122 / 裁判年月日: 平成9年2月28日 / 結論: 棄却
銀行が、就業規則を変更し、五五歳から六〇歳への定年延長及びこれに伴う五五歳以降の労働条件を定めた場合において、従前は、勤務に耐える健康状態にある男子行員が希望すれば五八歳までの定年後在職制度の適用を受けることができるという事実上の運用がされており、右変更により、定年後在職者が五八歳まで勤務して得ることを期待することがで…