タクシー会社の乗務員に対し、月ごとの勤務予定表どおり勤務した場合には月額三一〇〇円ないし四一〇〇円の皆勤手当を支給するが、右勤務予定表作成後に年次有給休暇を取得した場合には右手当の全部又は一部を支給しない旨の約定は、右手当の支給が代替要員の手配が困難となり自動車の実働率が低下する事態を避ける配慮をした乗務員に対する報奨としてされ、右手当の額も相対的に大きいものではないなどの判示の事情の下においては、年次有給休暇取得の権利の行使を抑制して労働基準法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものとは認められず、公序に反する無効なものとはいえない。
タクシー会社の乗務員が月ごとの勤務予定表作成後に年次有給休暇を取得した場合に皆勤手当を支給しない旨の約定が公序に反する無効なものとはいえないとされた事例
民法90条,労働基準法39条,労働基準法134条
判旨
年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いは、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、休暇取得への事実上の抑止力の強弱等を総合考慮し、権利保障の趣旨を実質的に失わせるものと認められない限り、公序に反して無効とはならない。
問題の所在(論点)
年次有給休暇の取得を理由に皆勤手当を控除する措置が、労働基準法39条等の趣旨に反し、公序良俗に反して無効となるか。
規範
労働基準法136条(旧134条)は努力義務を定めたものであり、不利益取扱いの私法上の効果を直ちに否定するものではない。しかし、年休取得を理由とする措置が、その趣旨・目的、労働者が失う経済的利益の程度、年休取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年休取得権の行使を抑制し、同法が権利を保障した趣旨を実質的に失わせると認められる場合には、公序(民法90条)に反して無効となる。
重要事実
タクシー会社である被上告人は、乗務員の出勤率向上を目的に、交番表通り出勤した者に月額約3000円〜4000円の皆勤手当を支給していた。一方で、労働協約に基づき、年休を含む欠勤が1日の場合は手当を半額、2日以上の場合は全額を支給しないこととしていた。上告人は、年休取得により手当が支給されなかったことが不利益取扱いに当たるとして、その無効を訴えた。なお、当該手当が月収に占める割合は最大でも1.85%程度であり、上告人は期間中に多数の年休を取得していた。
あてはめ
まず、本件措置の趣旨・目的は、運賃収入に依存するタクシー業において代替要員確保が困難な事情から、効率的運行を図るためのものであり、年休取得を一般的に抑制するものではない。次に、経済的利益の程度については、控除される額が月収の約1.85%にすぎず、相対的に大きいとはいえない。さらに、事実上の抑止力の強弱についても、上告人が実際には多数の年休を取得している事実に照らせば、抑止力は大きくなかったといえる。したがって、本件措置は年休保障の趣旨を実質的に失わせるものとは認められない。
結論
本件皆勤手当の控除措置は、労働基準法上の権利行使を抑制し、同法の趣旨を実質的に失わせるものとはいえず、公序に反して無効であるとはいえない。
実務上の射程
年休取得に伴う不利益取扱いの有効性に関するリーディングケースである。答案では、単に不利益があることのみをもって無効とせず、本判例の「総合考慮」の枠組み(目的、不利益の程度、抑止力の強弱)を用いて、具体的事実を各要素にあてはめる必要がある。特に金額の「月収比」や「実際の取得状況」は重要な評価の指標となる。
事件番号: 昭和55(オ)379 / 裁判年月日: 昭和58年11月25日 / 結論: 破棄差戻
使用者が就業規則中の「女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができる。そのうち年間二四日を有給とする。」との規定の後段を「そのうち月二日を限度とし、一日につき基本給の一日分の六八パーセントを補償する。」と一方的に変更した場合において、右変更が合理的なものであるか否かを判断するに当たつては、変更の内容及び必要性の…