判旨
年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いは、労働者の権利行使を抑制し、労基法39条の趣旨を実質的に失わせるものと認められない限り、公序良俗に反して無効となるとまではいえない。タクシー会社の皆勤手当控除が、減額幅の小ささや代替要員確保の困難性等の事情から、公序良俗に反しないと判断された事例。
問題の所在(論点)
年次有給休暇の取得を理由として皆勤手当を減額・不支給とする措置が、労働基準法39条(年次有給休暇)および同法134条(不利益取扱いの禁止)の趣旨に反し、公序良俗に反して無効となるか。
規範
労働基準法134条は努力義務を定めたものであり、不利益取扱いの私法上の効果を当然に否定するものではない。もっとも、有給休暇取得を理由とする不利益取扱いの効力については、①その趣旨・目的、②労働者が失う経済的利益の程度、③年次有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、労働者の有給休暇取得権の行使を抑制し、ひいては同法39条が右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められる場合には、公序(民法90条)に反して無効となると解すべきである。
重要事実
タクシー会社である被上告人は、乗務員の出勤率向上を目的として皆勤手当制度を採用し、労働協約に基づき、年次有給休暇を含む欠勤1日で手当の半額を控除し、2日以上で全額を不支給としていた。上告人は、年次有給休暇を取得したことにより皆勤手当を控除された。当時の皆勤手当(月額3,100円〜4,100円)の月収(約22万〜25万円)に対する割合は最大でも1.85%程度であり、上告人は43か月間に42日の有給休暇を実際に取得していた。
あてはめ
まず、本件措置は自動車の実働率向上という経営上の必要性に基づき、交番表確定後の取得による代替要員手配の困難を回避する目的でなされたものであり、休暇取得を一般的に抑制する趣旨ではない(①)。次に、控除される額は月収の2%弱にすぎず、失われる経済的利益は相対的に小さい(②)。さらに、現に上告人が頻繁に有給休暇を取得している事実に照らせば、本件措置が労働者の権利行使を事実上抑止する力は大きなものであったとはいえない(③)。したがって、労基法が有給休暇を保障した趣旨を実質的に失わせるものとは認められない。
結論
本件皆勤手当の控除措置は、公序に反して無効なものとまではいえず、有効である。
実務上の射程
不利益取扱いの有効性に関するリーディングケースである。答案では、単に「不利益だから無効」とするのではなく、減額の「金額的インパクト」や「業務上の必要性」を具体的に抽出し、上記3要素に当てはめて「権利行使の事実上の抑止」に至っているかを論じる必要がある。なお、本判決は私法的効力の根拠を公序良俗違反(民法90条)に求めている点に注意する。
事件番号: 昭和41(オ)1420 / 裁判年月日: 昭和48年3月2日 / 結論: 破棄自判
一、年次有給休暇における休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であると解すべきである。 二、労働基準法三九条三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる」か否かは、当該労働者の所属する事業場を基準として判断すべきである。