歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の賃金規則上の定めが公序良俗に反し無効であると判断するのみで,当該賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否かや,そのような判別をすることができる場合に,当該賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が同条その他の関係法令に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく未払賃金の請求を認容すべきものとした原審の判断には,割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果,審理を尽くさなかった違法がある。
歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の賃金規則上の定めが公序良俗に反し無効であるとして未払賃金の請求を認容した原審の判断に違法があるとされた事例
民法90条,労働基準法37条
判旨
歩合給の計算において売上高等の対象額から割増賃金相当額を控除する定めがある場合でも、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金部分を判別でき、かつ法定の計算額を下回らない限り、直ちに無効とはならない。
問題の所在(論点)
売上高等の一定割合に相当する金額から、労基法37条所定の割増賃金相当額を控除して歩合給を決定する賃金規則の定めが、同条の趣旨に反し公序良俗(民法90条)により無効となるか。
規範
1. 労働基準法37条は、同条等に定められた算定方法を義務付けるものではなく、算定された額を下回らない額の支払を義務付けるにとどまる。2. 割増賃金が支払われたか否かは、①通常の労働時間の賃金に当たる部分と、同条の定める割増賃金に当たる部分とを「判別」できるか、②割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金部分を基礎として法定の計算方法で算定した額を「下回っていないか」により判断する。3. 売上高から割増賃金相当額を控除して歩合給を算出する定めも、当然に同条の趣旨に反し公序良俗に反して無効となるものではない。
重要事実
タクシー会社である上告人の賃金規則では、歩合給の算出において、揚高(売上)に基づく対象額Aから、既払の割増金(残業手当・深夜手当・休日手当)を全額控除する旨の規定(本件規定)が存在した。この仕組みでは、揚高が同じであれば残業の有無にかかわらず最終的な賃金総額が同額となるため、労働者側が労基法37条の潜脱であり公序良俗違反による無効を主張して、控除された割増賃金相当額の支払を求めた。
あてはめ
原審は、残業の有無で総額が変わらない点を捉えて直ちに公序良俗違反としたが、最高裁はこれを否定した。まず、賃金規則上、割増賃金(残業手当等)の計算式自体は明確に定められており、形式的に通常の賃金部分と割増賃金部分の「判別」が可能であるかを審理すべきとした。次に、判別可能であるならば、本件規定に基づく控除後の歩合給(通常の賃金部分)を基礎として改めて法定の計算(労基法37条等)を行い、実際の支払額がその額を「下回っていないか」を具体的に検証すべきである。また、法内残業や法定外休日労働については同条の支払義務がないため、これらを区別して審理を尽くすべきであるとした。
結論
本件規定が当然に無効であるとはいえない。通常の賃金部分と割増賃金部分の判別可能性、および法定額との差額の有無について審理を尽くさせるため、原審に差し戻した。
実務上の射程
国際興業事件(最判平6.6.13)等の「判別可能性」と「差額支払」の枠組みを、歩合給から割増賃金を控除する計算形態(いわゆる揚高比例給)にも適用した。答案上は、まず形式的な判別可能性(本件では計算式の存在)を論じ、次に実質的な対価性や法定額の遵守を検討する流れとなる。ただし、後の最高裁判例(日本郵便事件等)において「通常の労働時間の賃金の対価性」がより厳格に判断される傾向にある点には注意が必要である。
事件番号: 令和4(受)1019 / 裁判年月日: 令和5年3月10日 / 結論: 破棄差戻
使用者Yが、変更後の就業規則等に基づく新たな賃金体系の下で、日々の業務内容等に応じて決定される月ごとの賃金総額から基本給等の額を差し引いた額を割増賃金の額とした上で、そのうち基本給等を通常の労働時間の賃金として労働基準法37条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定に定められた方法により算定した額を残業手当等の額とし、上記…