医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたとしても,当該年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明らかにされておらず,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができないという事情の下では,当該年俸の支払により,時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできない。
医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたとしても,当該年俸の支払により時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできないとされた事例
労働基準法37条
判旨
労働基準法37条の趣旨に基づき、基本給等に割増賃金を含める合意が有効となるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要である。本件のように、年俸のうち割増賃金に当たる部分が明らかにされていない場合には、割増賃金が支払われたとは認められない。
問題の所在(論点)
基本給等に割増賃金を含めて支払う合意がある場合、労働基準法37条に基づき割増賃金が支払われたと認められるための要件は何か。特に、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金部分の「判別可能性」が必要か。
規範
労働基準法37条は、同条等に定められた算定方法による額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けている。基本給や諸手当にあらかじめ割増賃金を含める方法自体は直ちに同条に違反しないが、割増賃金が適正に支払われたか否かを検討する前提として、契約上の基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要である。
重要事実
医師である上告人は、医療法人である被上告人と年俸1700万円(月額給与120万1000円、賞与等)で雇用契約を締結した。契約では、特定の緊急業務以外の手当(本件合意)は年俸に含まれるとされていたが、年俸のうち割増賃金に当たる部分は具体的に特定されていなかった。上告人は管理監督者には該当せず、時間外労働等に対する割増賃金の支払を求めた。
あてはめ
本件合意では、本件時間外規程に基づき支払われる以外の割増賃金を年俸に含めるとしていたが、年俸1700万円のうち割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかった。これでは支払われた賃金のうち割増賃金の額を確定することすらできず、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金部分を判別することができない。したがって、法37条所定の割増賃金が支払われたとはいえない。
結論
本件合意による年俸の支払をもって、時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできない。原審の判断を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
固定残業代制や年俸制において、割増賃金が有効に支払われたと認められるための「判別可能性要件」を明確にした。実務上は、雇用契約書等で基本給と固定残業代の金額(または相当する時間数)を明確に区分して表示しなければ、法37条の支払義務を免れない。高額年俸者や医師であっても、管理監督者でない限り本法理が厳格に適用される。
事件番号: 令和4(受)1293 / 裁判年月日: 令和5年7月20日 / 結論: その他
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