タクシー運転手に対する賃金が月間水揚高に一定の歩合を乗じて支払われている場合に、時間外及び深夜の労働を行った場合にもその額が増額されることがなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないときは、右歩合給の支給によって労働基準法(平成五年法律第七九号による改正前のもの)三七条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることはできない。
タクシー運転手に対する月間水揚高の一定率を支給する歩合給が時間外及び深夜の労働に対する割増賃金を含むものとはいえないとされた事例
労働基準法(平成5年法律第79号による改正前のもの)37条
判旨
歩合給に割増賃金が含まれるとする合意が有効となるには、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金部分とを判別できることが必要である。判別できない場合は、労働基準法37条の割増賃金が支払われたとは認められない。
問題の所在(論点)
労働契約において「歩合給の中に割増賃金が含まれる」旨の合意がある場合、労働基準法37条の割増賃金が適法に支払われたといえるか(賃金の判別可能性)。
規範
労働基準法37条が定める割増賃金の支払義務を免れるためには、支給される給与において、通常の労働時間の賃金に当たる部分と、時間外及び深夜の労働に対する割増賃金に当たる部分とを明確に判別できることを要する。判別が困難な場合には、当該給与の支払をもって同条の割増賃金の支払とみなすことはできない。
重要事実
タクシー会社に勤務する乗務員らが、時間外および深夜労働に対する割増賃金の支払を求めた事案。会社側は、月間水揚高に一定歩合を乗じて算出される「歩合給」の中に、既に割増賃金が含まれていると主張した。しかし、当該歩合給は時間外労働等を行っても増額される仕組みではなく、算出根拠において通常の賃金部分と割増賃金部分を区別する計算式も存在しなかった。
あてはめ
本件における歩合給は、水揚高に一定率を乗ずるのみで算出されており、時間外・深夜労働の有無にかかわらず総額が決定される性質のものである。また、その内訳において、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することが全くできない状態にある。したがって、この歩合給の支給によって法37条所定の割増賃金が支払われたと認めることは困難であると評価される。
結論
歩合給の支払をもって割増賃金の支払済みとすることはできず、会社は法37条等に基づき別途算定された割増賃金を支払う義務を負う。
実務上の射程
固定残業代制や手当による残業代の清算を争う事案(高知県観光事件等)のリーディングケースとして活用される。答案上では「通常の賃金部分と割増賃金部分の明確区分性」を判断基準として明示し、給与体系からその判別が可能かを具体的に検討する際に用いる。
事件番号: 平成28(受)222 / 裁判年月日: 平成29年7月7日 / 結論: その他
医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたとしても,当該年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明らかにされておらず,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができないという事情の下では,当該年俸の支払により,時間外労働…