婚姻中の父母のうち父に対して子を母に引き渡すよう命ずる審判の確定から約2か月の間に2回にわたり子が母に引き渡されることを拒絶する言動をしたにとどまるなど判示の事実関係の下では、子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ子の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる父の行為を具体的に想定することは困難であるなどとして、上記審判を債務名義とする間接強制の方法による子の引渡しの強制執行の申立てが権利の濫用に当たるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。 (補足意見がある。)
子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の方法による子の引渡しの強制執行の申立てが権利の濫用に当たるとした原審の判断に違法があるとされた事例
民法1条3項、民事執行法172条1項、民事執行法174条1項2号
判旨
子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制において、子が債権者に引き渡されることを拒絶する意思を表明していることは、直ちに間接強制決定を妨げる理由とはならない。債務者は、子の拒絶意思がある場合でも、子の心身に有害な影響を及ぼさないよう配慮しつつ合理的な行為を行って引渡しを実現すべき義務を負うため、短期間の拒絶言動のみでは権利濫用とは認められない。
問題の所在(論点)
子の引渡しを命ずる債務名義に基づく間接強制の申立てにおいて、子が明確な拒絶意思を表示している場合、当該申立ては権利の濫用として却下されるべきか(民事執行法上の要件および信義則)。
規範
子の引渡しを命ずる審判を受けた債務者は、子の年齢や発達の程度を踏まえ、その心身に有害な影響を及ぼさないよう配慮しつつ、合理的に必要と考えられる行為を行って引渡しを実現すべき義務を負う。この義務は、子が引渡しを望まない場合であっても同様である。したがって、子が拒絶の意思を表明していることは、直ちに間接強制決定を妨げる理由とはならず、間接強制の申立てが権利の濫用として許されないとされるのは、具体的な事実関係の下で、もはや引渡しを実現するための合理的行為を想定することが困難な特段の事情がある場合に限られる。
事件番号: 平成30(許)13 / 裁判年月日: 平成31年4月26日 / 結論: 破棄自判
婚姻中の父母のうち父に対して長男A,二男B及び長女Cを母に引き渡すよう命ずる審判を債務名義とするAの引渡しについての間接強制の申立ては,次の(1),(2)など判示の事情の下では,権利の濫用に当たる。 (1) 上記審判を債務名義とする引渡執行の際,B及びCが母に引き渡されたにもかかわらず,A(当時9歳3箇月)については,…
重要事実
抗告人(母)と相手方(父)は別居中であり、家庭裁判所は長男および二男の監護者を抗告人と指定し、相手方に引渡しを命ずる審判を行い、これは確定した。抗告人が相手方宅を訪れた際、二男の引渡しは受けたが、長男は説得に応じず激しく抵抗して拒絶した。その後、面会の機会においても長男は抗告人に対して強い反発を示し、抱かれることも拒否した。抗告人は本件審判を債務名義として間接強制を申し立てたが、原審は、長男の拒絶は真意であり、合理的に必要と考えられる行為の具体化が困難であるとして、申立てを権利の濫用と判断し却下した。
あてはめ
本件において、長男が抗告人への引渡しを拒絶する言動をしたのは、審判確定から約2か月の間に2回にとどまっている。債務者たる相手方には、子の心身に配慮しつつ引渡しを実現すべき義務があり、短期間に数回の拒絶があったという事実関係のみでは、引渡しを実現するために合理的に必要な行為を想定することが困難な状況に至っているとはいえない。したがって、本件審判に基づく間接強制が「過酷な執行」にあたる、あるいは申立てが「権利の濫用」にあたると断じることはできず、執行を認めるべきである。
結論
長男の拒絶意思があるからといって、直ちに間接強制を妨げる理由にはならない。本件申立てを権利の濫用とした原決定は法令の解釈適用の誤りがあり、間接強制を認めた原々決定は正当である。
実務上の射程
子の引渡しにおける間接強制の可否を判断するリーディングケース。子の拒絶がある場合に「直ちに権利濫用にはならない」とする原則を確認しつつ、過去の判例(最決平31・4・26)が権利濫用を認めたケース(公的機関により拒絶の明確性が確認済み等)との比較において、本件のような短期間の拒絶では執行を否定できないことを示している。答案上は、債務者の「引渡し実現に向けた努力義務」を前提とした論理構成が求められる。
事件番号: 令和3(許)8 / 裁判年月日: 令和4年6月21日 / 結論: 棄却
ハーグ条約実施法134条に基づき子の返還を命ずる終局決定を債務名義としてされた間接強制の方法による子の返還の強制執行の申立ては、当該申立ての後に当該終局決定を債務名義とする子の返還の代替執行により子の返還が完了したという事実関係の下においては、不適法である。
事件番号: 平成24(許)41 / 裁判年月日: 平成25年3月28日 / 結論: 棄却
監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において,面会交流の頻度等につき1箇月に2回,土曜日又は日曜日に1回につき6時間とする旨定められているが,子の引渡しの方法については何ら定められていないなど判示の事情の下では,監護親がすべき給付が十分に特定されているとはいえず,上記審判に基づ…
事件番号: 平成24(許)47 / 裁判年月日: 平成25年3月28日 / 結論: 棄却
非監護親と監護親との間において非監護親と子が面会交流をすることを定める調停が成立した場合において,調停調書に次の(1),(2)のとおり定められているなど判示の事情の下では,監護親がすべき給付が十分に特定されているとはいえず,上記調停調書に基づき監護親に対し間接強制決定をすることはできない。 (1) 面会交流は,2箇月に…
事件番号: 平成17(許)18 / 裁判年月日: 平成17年12月9日 / 結論: 棄却
不作為を目的とする債務の強制執行として間接強制決定をするには,債権者において,債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足り,債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はない。