不作為を目的とする債務の強制執行として間接強制決定をするには,債権者において,債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足り,債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はない。
不作為を目的とする債務の強制執行として間接強制決定をするために債権者において債務者の不作為義務違反の事実を立証することの要否
民事執行法172条1項
判旨
不作為を目的とする債務の間接強制(民事執行法172条1項)において、債権者は債務者が義務に違反する「おそれ」があることを立証すれば足り、現に義務違反が発生していることまで立証する必要はない。
問題の所在(論点)
不作為を目的とする債務の強制執行(民事執行法172条1項)において、間接強制決定を発令するための要件として、現実に義務違反が発生していることが必要か、あるいは違反の「おそれ」があれば足りるか。
規範
不作為債務の間接強制決定をするには、債務者が当該不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足りる。この「おそれ」は、高度の蓋然性や急迫性に裏付けられたものである必要はない。他方で、現に義務違反が発生していることまでの立証は不要である。
重要事実
債権者は、不作為を目的とする債務の強制執行として、民事執行法172条1項に基づき間接強制決定を求めた。原審は、債務者が現に義務に違反している事実は認められないものの、違反するおそれがあるとして間接強制を認めたため、債務者側がこれを不服として抗告した。
事件番号: 平成26(許)17 / 裁判年月日: 平成27年1月22日 / 結論: 棄却
確定判決により干拓地の潮受堤防の排水門を開放すべき義務を負った者が第三者の申立てに基づく仮処分決定により上記排水門を開放してはならない旨の義務を負ったという事情があっても,執行裁判所は上記確定判決に基づき間接強制決定をすることができる。
あてはめ
間接強制は、金銭支払を命じることで心理的強制を加え、将来の債務履行を確保する制度である。不作為債務はその性質上、一度違反が生じると回復が不可能な場合が多く、一度の違反を甘受しなければ決定を得られないとすれば実効性を著しく損なう。また、決定後の取り立て段階で執行文付与のために義務違反の立証が求められる(民事執行法27条1項、33条1項)ため、発令段階で「おそれ」の立証に留めても債務者の保護に欠けることはない。本件では義務違反のおそれという要件を満たしていることは明らかといえる。
結論
不作為義務違反の「おそれ」があれば間接強制決定を発令できる。現に義務違反が発生している必要はない。
実務上の射程
不作為債務(競業避止義務、商標・著作権侵害の差止等)の強制執行における立証責任の範囲を明確化した。民事執行法27条1項が準用される「条件」としての義務違反と、172条1項の発令要件を峻別して論じる際に用いる。
事件番号: 平成26(許)26 / 裁判年月日: 平成27年1月22日 / 結論: 棄却
仮処分決定により干拓地の潮受堤防の排水門を開放してはならない旨の義務を負った者が第三者の提起した訴訟の確定判決により上記排水門を開放すべき義務を負っているという事情があっても,執行裁判所は上記仮処分決定に基づき間接強制決定をすることができる。
事件番号: 令和3(許)17 / 裁判年月日: 令和4年11月30日 / 結論: 破棄自判
婚姻中の父母のうち父に対して子を母に引き渡すよう命ずる審判の確定から約2か月の間に2回にわたり子が母に引き渡されることを拒絶する言動をしたにとどまるなど判示の事実関係の下では、子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ子の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる父の行為を具体的に想定することは困難である…
事件番号: 平成30(許)13 / 裁判年月日: 平成31年4月26日 / 結論: 破棄自判
婚姻中の父母のうち父に対して長男A,二男B及び長女Cを母に引き渡すよう命ずる審判を債務名義とするAの引渡しについての間接強制の申立ては,次の(1),(2)など判示の事情の下では,権利の濫用に当たる。 (1) 上記審判を債務名義とする引渡執行の際,B及びCが母に引き渡されたにもかかわらず,A(当時9歳3箇月)については,…
事件番号: 平成24(許)47 / 裁判年月日: 平成25年3月28日 / 結論: 棄却
非監護親と監護親との間において非監護親と子が面会交流をすることを定める調停が成立した場合において,調停調書に次の(1),(2)のとおり定められているなど判示の事情の下では,監護親がすべき給付が十分に特定されているとはいえず,上記調停調書に基づき監護親に対し間接強制決定をすることはできない。 (1) 面会交流は,2箇月に…