婚姻中の父母のうち父に対して長男A,二男B及び長女Cを母に引き渡すよう命ずる審判を債務名義とするAの引渡しについての間接強制の申立ては,次の(1),(2)など判示の事情の下では,権利の濫用に当たる。 (1) 上記審判を債務名義とする引渡執行の際,B及びCが母に引き渡されたにもかかわらず,A(当時9歳3箇月)については,引き渡されることを拒絶して呼吸困難に陥りそうになったため,執行を続けるとその心身に重大な悪影響を及ぼすおそれがあるとして執行不能とされた。 (2) 父及びその両親を拘束者,Aを被拘束者とする人身保護請求事件の審問期日において,A(当時9歳7箇月)は,母に引き渡されることを拒絶する意思を明確に表示し,その人身保護請求は,Aが父等の影響を受けたものではなく自由意思に基づいて父等のもとにとどまっているとして棄却された。 (補足意見がある。)
子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の申立てが権利の濫用に当たるとされた事例
民法1条3項,民法414条1項,民法766条1項,家事事件手続法75条,家事事件手続法154条3項,民事執行法172条1項
判旨
子が引渡しを拒絶する意思を表明していることのみでは間接強制を妨げないが、心身に有害な影響を及ぼさず引渡しを実現するために合理的に必要な行為を債務者が行うことが困難な特段の事情がある場合には、間接強制は権利の濫用として許されない。
問題の所在(論点)
子が引渡しを明確に拒絶している場合において、間接強制決定による心理的圧迫を行うことが許されるか。
規範
子の引渡しを命ずる債務者は、子の心身に有害な影響を及ぼさないよう配慮しつつ、合理的に必要と考えられる行為を行って引渡しを実現する義務を負う。もっとも、間接強制による心理的圧迫が、債務者に実現困難な行為を強いる「過酷な執行」となる場合には、当該申立ては権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されない。
重要事実
事件番号: 令和3(許)17 / 裁判年月日: 令和4年11月30日 / 結論: 破棄自判
婚姻中の父母のうち父に対して子を母に引き渡すよう命ずる審判の確定から約2か月の間に2回にわたり子が母に引き渡されることを拒絶する言動をしたにとどまるなど判示の事実関係の下では、子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ子の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる父の行為を具体的に想定することは困難である…
債務者(父)に対し子の引渡しを命ずる審判が確定したが、強制執行の際、当時9歳の長男が激しく拒絶し呼吸困難に陥りそうになったため執行不能となった。その後の人身保護請求事件でも、長男は十分な判断能力に基づき、父の元に留まる自由意思を明確に表示した。これらを経て債権者(母)が間接強制を申し立てた事案。
あてはめ
長男は執行時に呼吸困難に陥るほど引渡しを拒絶しており、人身保護請求判決でも父の影響を受けない自由意思による居住が認定されている。この経過から、長男の心身に有害な影響を及ぼさずに引渡しを実現するための具体的な行為を債務者に想定することは困難である。このような状況下で金銭支払による心理的圧迫を加えることは、債務者に不可能な行為を強いる過酷な執行であり、権利の濫用に当たる。
結論
本件間接強制の申立ては、権利の濫用として却下すべきである。
実務上の射程
子が一定の年齢・判断能力に達し、その拒絶意思が強固かつ自由意思に基づくことが先行手続で明らかな場合、間接強制の「執行可能性」を否定し権利濫用として遮断する射程を持つ。答案では、子の引渡しの実効性と子の福祉の不調和を解決する論理として活用する。
事件番号: 平成24(許)47 / 裁判年月日: 平成25年3月28日 / 結論: 棄却
非監護親と監護親との間において非監護親と子が面会交流をすることを定める調停が成立した場合において,調停調書に次の(1),(2)のとおり定められているなど判示の事情の下では,監護親がすべき給付が十分に特定されているとはいえず,上記調停調書に基づき監護親に対し間接強制決定をすることはできない。 (1) 面会交流は,2箇月に…
事件番号: 平成24(許)48 / 裁判年月日: 平成25年3月28日 / 結論: 棄却
1 監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において,面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は,上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができる。 2 監護親…
事件番号: 平成24(許)41 / 裁判年月日: 平成25年3月28日 / 結論: 棄却
監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において,面会交流の頻度等につき1箇月に2回,土曜日又は日曜日に1回につき6時間とする旨定められているが,子の引渡しの方法については何ら定められていないなど判示の事情の下では,監護親がすべき給付が十分に特定されているとはいえず,上記審判に基づ…
事件番号: 令和3(許)8 / 裁判年月日: 令和4年6月21日 / 結論: 棄却
ハーグ条約実施法134条に基づき子の返還を命ずる終局決定を債務名義としてされた間接強制の方法による子の返還の強制執行の申立ては、当該申立ての後に当該終局決定を債務名義とする子の返還の代替執行により子の返還が完了したという事実関係の下においては、不適法である。