仮処分決定により干拓地の潮受堤防の排水門を開放してはならない旨の義務を負った者が第三者の提起した訴訟の確定判決により上記排水門を開放すべき義務を負っているという事情があっても,執行裁判所は上記仮処分決定に基づき間接強制決定をすることができる。
仮処分決定により干拓地の潮受堤防の排水門を開放してはならない旨の義務を負った者が第三者の提起した訴訟の確定判決により上記排水門を開放すべき義務を負っているという事情がある場合における上記仮処分決定に基づく間接強制決定の許否
民事執行法172条1項,民事保全法52条
判旨
債務者が、第三者との間の別件確定判決により一定の行為を命じられたとしても、本件仮処分決定に基づく不作為義務が性質上債務者の意思のみで履行可能である限り、間接強制は許容される。民事訴訟の相対的効力により、内容が矛盾する複数の裁判が成立することは制度上あり得るところであり、執行裁判所は実体的な判断の当否を審理すべきではない。
問題の所在(論点)
債務者が別件確定判決において正反対の作為義務(排水門の開放)を命じられている場合に、本件仮処分に基づく不作為義務(排水門の開放禁止)を「債務者の意思のみで履行することができる債務」として間接強制することが許されるか。
規範
民事執行法172条1項所定の間接強制の対象となる債務は、その性質上債務者の意思のみで履行することができるものであることを要する。債務者が別件確定判決により相反する義務を負っているとしても、不作為義務自体が債務者の意思で履行可能である以上、この要件を充たす。民事訴訟における判断の効力は当事者間にのみ及ぶ(相対的効力)ため、権利者を異にする別個の裁判において判断が矛盾することは制度上許容されており、執行裁判所は実体的な義務の当否を審理する立場にない。
重要事実
事件番号: 平成26(許)17 / 裁判年月日: 平成27年1月22日 / 結論: 棄却
確定判決により干拓地の潮受堤防の排水門を開放すべき義務を負った者が第三者の申立てに基づく仮処分決定により上記排水門を開放してはならない旨の義務を負ったという事情があっても,執行裁判所は上記確定判決に基づき間接強制決定をすることができる。
諫早湾干拓事業に関し、近隣農業者(相手方)は、国(抗告人)に対し排水門を開放してはならない旨の仮処分決定(本件仮処分)を得た。一方で、近隣漁業者らは、国に対し同排水門の開放を命ずる確定判決(別件確定判決)を得ていた。相手方は、本件仮処分に基づき間接強制を申し立てたが、国は、別件確定判決による開放義務があるため、開放を禁止する義務の履行には意思のみで排除できない障害があると主張して争った。
あてはめ
本件仮処分に基づき国が負う債務は「排水門を開放してはならない」という不作為義務であり、それ自体は性質上、国の意思のみで履行することが可能である。国が漁業者らとの別件確定判決により開放義務を負っているとしても、民事訴訟の効力は相対的であり、制度上、義務の内容が矛盾する裁判が並立することはあり得る。執行裁判所は、これら各裁判における実体的な判断の当否を審査すべきではない。したがって、不作為義務を履行しない国に対し、間接強制決定を発する民事執行法上の要件は満たされている。
結論
別件確定判決による相反する義務の存在にかかわらず、本件仮処分に基づく不作為義務について間接強制決定をすることは適法である。
実務上の射程
義務内容が正面から矛盾する複数の裁判が並立した場合でも、執行裁判所は形式的に執行適格を確認すべきであり、実体的矛盾を理由に執行を拒むことはできないとする。義務の競合による困惑は、請求異議の訴え等による実体法上の解決に委ねられる。答案上は、間接強制の要件である「債務者の意思による履行の可能性」を検討する際、公法上の規制や他人の権利行使等の「外部的障害」と、単なる「相反する裁判の存在」を区別する指針として用いる。
事件番号: 平成17(許)18 / 裁判年月日: 平成17年12月9日 / 結論: 棄却
不作為を目的とする債務の強制執行として間接強制決定をするには,債権者において,債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足り,債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はない。
事件番号: 平成30(許)13 / 裁判年月日: 平成31年4月26日 / 結論: 破棄自判
婚姻中の父母のうち父に対して長男A,二男B及び長女Cを母に引き渡すよう命ずる審判を債務名義とするAの引渡しについての間接強制の申立ては,次の(1),(2)など判示の事情の下では,権利の濫用に当たる。 (1) 上記審判を債務名義とする引渡執行の際,B及びCが母に引き渡されたにもかかわらず,A(当時9歳3箇月)については,…
事件番号: 平成24(許)47 / 裁判年月日: 平成25年3月28日 / 結論: 棄却
非監護親と監護親との間において非監護親と子が面会交流をすることを定める調停が成立した場合において,調停調書に次の(1),(2)のとおり定められているなど判示の事情の下では,監護親がすべき給付が十分に特定されているとはいえず,上記調停調書に基づき監護親に対し間接強制決定をすることはできない。 (1) 面会交流は,2箇月に…
事件番号: 令和3(許)8 / 裁判年月日: 令和4年6月21日 / 結論: 棄却
ハーグ条約実施法134条に基づき子の返還を命ずる終局決定を債務名義としてされた間接強制の方法による子の返還の強制執行の申立ては、当該申立ての後に当該終局決定を債務名義とする子の返還の代替執行により子の返還が完了したという事実関係の下においては、不適法である。