被疑者に対して強制採尿を実施することが「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合とは認められないのにされた強制採尿令状の発付は違法であり、警察官らが同令状に基づいて強制採尿を実施した行為も違法であるが、警察官らはありのままを記載した疎明資料を提出して同令状を請求し、裁判官の審査を経て発付された適式の同令状に基づき強制採尿を実施したもので、その執行手続自体に違法な点はなく、「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合であることについて、疎明資料において、合理的根拠が欠如していることが客観的に明らかであったというものではなく、また、警察官らは直ちに強制採尿を実施することなく被疑者に対して尿を任意に提出するよう繰り返し促すなどしていたなど判示の事情(判文参照)の下では、強制採尿手続の違法の程度はいまだ重大とはいえず、同手続により得られた尿の鑑定書等の証拠能力を肯定することができる。
強制採尿令状の発付に違法があっても尿の鑑定書等の証拠能力は肯定できるとされた事例
刑訴法1条、刑訴法99条1項、刑訴法102条1項、刑訴法218条1項、刑訴法222条1項、刑訴法317条
判旨
強制採尿令状の発付要件を欠く違法があっても、捜査機関が客観的根拠を欠くことが明白でない疎明資料を提出し、適式な令状に基づき、被疑者の身体・人格に配慮しつつ執行した場合は、違法の重大性は否定され、証拠能力は認められる。
問題の所在(論点)
強制採尿令状の発付要件(嫌疑および必要性)を欠く違法がある場合に、当該令状に基づき収集された証拠(鑑定書等)の証拠能力が認められるか。特に、令状主義没却といえるほどの重大な違法があるかが問題となる。
規範
違法収集証拠の証拠能力は、①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、②これを証拠として許容することが将来の違法捜査抑制の見地から相当でないと認められる場合に否定される。強制採尿については、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、証拠の重要性・必要性、代替手段の不存在等の事情に照らし、「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合に最終的手段として許容される。
重要事実
警察官は、参考人の供述や前科から被告人の覚醒剤使用を疑い、接触や任意採尿の説得を行わないまま強制採尿令状を請求した。請求時の疎明資料には過去の強制採尿実績や被告人の性格等を記載した。裁判官は令状を発付したが、執行時、警察官は直ちに強制採尿せず、ろれつが回らない被告人に対し繰り返し任意提出を促し、拒否された後に令状を執行。医師のカテーテルにより尿を採取し、覚醒剤が検出された。
あてはめ
本件では、令状請求前に任意採尿の説得を欠くなど「真にやむを得ない」とはいえず、令状発付および執行は違法である。しかし、警察官はありのままの疎明資料を提出して適式な令状を得ており、合理的根拠の欠如が客観的に明白とはいえない。また、執行時に任意提出を繰り返し促すなど身体・人格への一定の配慮がなされており、規定を潜脱する意図も認められない。したがって、違法の程度は令状主義の精神を没却するほど重大ではない。
結論
本件強制採尿手続の違法の程度は重大とはいえず、将来の違法捜査抑制の見地からも、本件鑑定書等の証拠能力を肯定することができる。
実務上の射程
令状発付段階に実体的な要件不備(嫌疑や必要性の不足)があったとしても、捜査機関の誠実な態度(事実のありのままの記載や、執行時の任意提出の督促)があれば、証拠排除までには至らないという基準を示した。司法審査の不備を捜査機関の帰責性に直結させない判断枠組みとして重要である。
事件番号: 昭和54(あ)429 / 裁判年月日: 昭和55年10月23日 / 結論: 棄却
一 被疑者の体内から導尿管(カテーテル)を用いて強制的に尿を採取することは、捜査手続上の強制処分として絶対に許されないものではなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を…
事件番号: 令和2(あ)1763 / 裁判年月日: 令和3年7月30日 / 結論: 破棄差戻
警察官が,被告人の自動車内にチャック付きビニール袋を確認した旨の疎明資料を作成して同車に対する捜索差押許可状及び強制採尿令状を請求して上記各令状の発付を受け,同車内から覚醒剤等の薬物を差し押さえ,被告人から尿の任意提出を受けたなどの本件の事実経過(判文参照)の下では,同薬物並びに同薬物及び被告人の尿に関する各鑑定書の証…