一 被疑者の体内から導尿管(カテーテル)を用いて強制的に尿を採取することは、捜査手続上の強制処分として絶対に許されないものではなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経たうえ、被疑者の身体の安全と人格の保護のための十分な配慮のもとに行うことが許される。 二 捜査機関が強制採尿をするには捜索差押令状によるべきであり、右令状には、医師をして医学的に相当と認められる方法で行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠である。 三 強制採尿の過程に、適切な条件を付した捜索差押令状でなく、身体検査令状及び鑑定処分許可状によつてこれを行つた不備があつても、それ以外の点では法の要求する要件がすべて充足されているときには(判文参照)、右の不備は、採尿検査の適法性をそこなうものではない。
一 捜査手続上の強制処分として被疑者の体内から導尿管(カテーテル)を用いて尿を採取することの可否 二 被疑者からの強制採尿に必要な令状の種類とその形式 三 強制採尿の過程に適切な条件を付した捜索差押令状によらなかつた不備があつても採尿検査の適法性がそこなわれないとされた事例
刑訴法99条,刑訴法102条,刑訴法218条,刑訴法219条,刑訴法222条,覚せい剤取締法19条,覚せい剤取締法41条の2第1項3号
判旨
強制採尿は、犯罪の重大性や必要性等の事情に照らし真にやむを得ない場合に限り、医師による医学的に相当な方法で行わせる旨の条件を付した捜索差押令状(刑訴法218条1項)により許容される。
問題の所在(論点)
強制採尿という身体への侵入を伴う強制処分が許されるための要件、及びそれに必要な令状の種類と記載要件が問題となる。
規範
強制採尿が許容されるためには、①被疑事件の重大性、②嫌疑の存在、③証拠の重要性と取得の必要性、④適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪捜査上真にやむを得ないと認められる最終的手段であることを要する。その実施に際しては、医師等の習熟した技能者が医学的に相当な方法で行うべきであり、適切な条件を付した捜索差押令状(218条1項)による。また、身体検査の性質も有するため、218条5項(現6項)を準用し、医師に医学的に相当な方法で行わせる旨の条件記載を不可欠とする。
重要事実
覚醒剤譲渡の被疑事実で逮捕された被告人に対し、警察官は注射痕や言動から自己使用の嫌疑を抱き尿の任意提出を求めたが、拒絶された。捜査機関は、身体検査令状及び鑑定処分許可状を得て、医師に嘱託してカテーテルによる強制採尿を実施した。被告人は激しく抵抗したが、数人の警察官による抑え込みは安全実施に必要最小限度であった。また、医師により医学的な配慮の下で実施された。
あてはめ
①覚醒剤使用罪は懲役10年以下と重大であり、②注射痕等から嫌疑も認められる。③否認事件において尿は不可欠な証拠であり、④33時間拒否され続け代替手段もなかった。したがって、真にやむを得ない最終的手段といえる。実施態様も、医師による適切な方法であり、警察官の有形力も必要最小限度であった。本来は条件付捜索差押令状によるべきだが、実務慣行に従い身体検査令状等を取得している場合は実質的要請を充たしており、形式的不備にすぎない。
結論
本件採尿検査は適法である(原判決の違法判断は誤りだが、証拠能力を認めた結論は維持される)。
実務上の射程
強制処分の法定刑、証拠の代替不能性、比例原則(必要性・緊急性・相当性)を検討する際のリーディングケース。答案では「捜索差押令状(+医師による実施の条件)」の要否と、有形力行使の相当性をセットで論じる。
事件番号: 昭和53(あ)1835 / 裁判年月日: 昭和54年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被疑者から任意に提出された尿を領置する行為は、強制捜査に当たらない限り、令状なくしてなされたものであっても適法な任意捜査の範囲内である。 第1 事案の概要:捜査機関が、被疑者に対して尿の提出を求め、被疑者が自ら尿を採取して提出した。捜査機関はこの提出された尿を令状なしに領置した。弁護側は、令状なく…
事件番号: 令和3(あ)711 / 裁判年月日: 令和4年4月28日 / 結論: 破棄自判
被疑者に対して強制採尿を実施することが「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合とは認められないのにされた強制採尿令状の発付は違法であり、警察官らが同令状に基づいて強制採尿を実施した行為も違法であるが、警察官らはありのままを記載した疎明資料を提出して同令状を請求し、裁判官の審査を経て発付された適式の同令状に基づき強制採尿を実…