警察官が被告人をその意思に反して警察署に連行したうえ、その状況を直接利用して所持品検査及び採尿を行つた場合に、その手続に違法があつても、連行の際に被告人が落とした紙包みの中味が覚せい剤であると判断され、その時点で被告人を逮捕することが許された本件事情の下では(判文参照)、その違法の程度はいまだ重大であるとはいえず、右手続により得られた覚せい剤等の証拠の証拠能力は否定されない。
所持品検査及び採尿手続に違法があつてもこれにより得られた証拠の証拠能力は否定されないとした事例
憲法35条,警察官職務執行法2条1項ないし3項,刑訴法1条,刑訴法218条1項,刑訴法221条
判旨
違法な強制同行に続く所持品検査や採尿により得られた証拠であっても、違法の程度が令状主義の精神を没却するほど重大ではなく、証拠排除が将来の違法捜査抑制の見地から相当といえない場合には、証拠能力が認められる。本件では実質的な逮捕の要件が備わっており、捜査手順の誤りにすぎないとして証拠能力を肯定した。
問題の所在(論点)
強制同行および承諾のない所持品検査という違法な手続によって得られた証拠、およびそれに関連して得られた派生証拠(尿等)について、違法収集証拠排除法則により証拠能力が否定されるか。
規範
違法に収集された証拠の証拠能力は、①違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なものであり、かつ、②これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合には、否定される。
重要事実
警察官が、覚せい剤使用の疑いがある被告人を職務質問のために追跡し、転倒した被告人を取り押さえた。被告人の拒絶にかかわらずパトカーに乗車させて署へ強制同行し、さらに署において承諾なく靴下の中から覚せい剤等を発見した(本件所持品検査)。その後、被告人の応諾を得て尿を提出させた(本件採尿)。同行の過程で被告人は覚せい剤様の紙包みを路上に落としており、警察官はこれを現認し保管していた。
あてはめ
強制同行および所持品検査は無令状かつ強制にわたり違法である。しかし、①警察官は被告人が落とした紙包みが覚せい剤であると判断しており、実質的には現行犯逮捕または緊急逮捕が可能であったことから、本件は捜査手順の選択を誤ったにすぎず法規からの逸脱は大きくない。また、②有形力の行使も抵抗を排するための必要最小限で暴力性はなく、令状主義を潜脱する意図も認められない。③採尿自体は自由意思に基づいている。したがって、違法は未だ重大とはいえず、排除の相当性も認められない。
結論
本件所持品検査により得られた覚せい剤等、および本件採尿により得られた尿等の証拠能力は肯定される。
実務上の射程
違法な捜査手続が存在しても直ちに証拠排除とはならないことを示した。特に、実質的な逮捕の要件(蓋然性・緊急性)が具備されていた場合には「捜査手順の誤り」として違法の重大性が否定されやすい。答案では、先行手続の違法の程度と、実質的逮捕要件の有無、捜査官の主観的意図を慎重に検討する際に引用する。
事件番号: 平成6(あ)894 / 裁判年月日: 平成7年5月30日 / 結論: 棄却
警察官が職務質問に付随して行う所持品検査として被疑者の運転していた自動車内を承諾なく調べた行為及びこれに基づき発見された覚せい剤の所持を被疑事実とする現行犯逮捕手続に違法があり、引き続いて行われた採尿手続も違法性を帯びるが、警察官は、停止の求めを無視して自動車で逃走するなどの不審な挙動を示した被疑者について、覚せい剤の…
事件番号: 平成6(あ)187 / 裁判年月日: 平成6年9月16日 / 結論: 棄却
一 身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、いわゆる強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができる。 二 覚せい剤使用の嫌疑のある被疑者に対し、自動車のエンジンキーを取り上げるなどして運転を阻止した上、任意同行を求めて約六時…
事件番号: 昭和51(あ)865 / 裁判年月日: 昭和53年9月7日 / 結論: 破棄差戻
一 職務質問に附随して行う所持品検査は所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度…