一 職務質問に附随して行う所持品検査は所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合がある。 二 警察官が、覚せい剤の使用ないし所持の容疑がかなり濃厚に認められる者に対して職務質問中、その者の承諾がないのに、その上衣左側内ポケツトに手を差し入れて所持品を取り出したうえ検査した行為(判文参照)は、職務質問に附随する所持品検査において許容される限度を超えた行為である。 三 証拠物の押収等の手続に憲法三五条及びこれを受けた刑訴法二一八条一項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるべきである。 四 職務質問の要件が存在し、かつ、所持品検査の必要性と緊急性が認められる状況のもとで、必ずしも諾否の態度が明白ではなかつた者に対し、令状主義に関する諸規定を潜脱する意図なく、また、他に強制等を加えることなく行われた本件所持品検査(判文参照)において、警察官が所持品検査として許容される限度をわずかに超え、その者の承諾なくその上衣左側内ポケツトに手を差し入れて取り出し押収した点に違法があるに過ぎない本件証拠物の証拠能力は、これを肯定すべきである。
一 職務質問に附随して行う所持品検査の許容限度 二 職務質問に附随して行う所持品検査において許容される限度を超えた行為と認められた事例 三 押収等の手続に違法のある証拠物とその証拠能力 四 押収手続に違法のある証拠物について証拠能力が認められた事例
憲法31条,憲法35条,警察官職務執行法2条1項,刑訴法1条,刑訴法218条1項
判旨
職務質問に付随する所持品検査は、強制にわたらない限り、必要性、緊急性、個人の法益と公共の利益の権衡を考慮し、相当な限度で許容される。また、違法収集証拠の証拠能力は、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、将来の違法捜査抑制の見地から相当でない場合に否定される。
問題の所在(論点)
1.警察官が承諾なくポケット内に手を入れて所持品を取り出す行為は、警職法2条1項に基づく所持品検査として適法か。 2.右行為が違法である場合、差し押さえられた証拠物の証拠能力は否定されるか。
規範
1.所持品検査:警職法2条1項に基づく職務質問に付随する所持品検査は、任意手段として所持人の承諾を得るのが原則だが、強制にわたらない限り(捜索に至らない程度)、所持品検査の必要性、緊急性、侵害される個人の法益と保護される公共の利益との権衡を考慮し、具体的状況下で相当と認められる限度で許容される。 2.違法収集証拠排除法則:証拠物の押収手続に、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来の違法捜査抑制の見地から相当でないと認められる場合には、その証拠能力は否定される。
重要事実
深夜のホテル街にて、警察官が不審な挙動の被告人に職務質問を実施した。被告人が所持品提示を拒否し、同行者も挑発的態度を示したため応援を要請。被告人が一部の所持品を提示した後、警察官が上衣の上から触れると堅い物の感触があった。提示要求に黙秘した被告人に対し、警察官は「出してみるぞ」と言って承諾なく上衣の内ポケットに手を入れて紙包みを取り出した。中から覚せい剤が発見されたため、現行犯逮捕し証拠物を差し押さえた。
あてはめ
1.所持品検査の適法性:被告人に覚せい剤所持の濃厚な容疑があり、妨害の恐れもあることから検査の必要性・緊急性は認められる。しかし、内ポケットに手を入れる行為はプライバシー侵害の程度が高く、態様も捜索に類する。本件状況下では相当な限度を超えており、違法である。 2.証拠能力:警察官は、所持品検査の許容限度をわずかに超えたに過ぎず、令状主義規定を潜脱する意図は認められない。また、暴力的な強制等の事跡もない。したがって、本件違法は「重大な違法」とはいえず、違法捜査抑制の見地からも証拠能力を否定すべきではない。
結論
警察官の内ポケットへの手差し入れは警職法上違法であるが、その違法は重大とはいえず、差し押さえられた覚せい剤の証拠能力は肯定される。
実務上の射程
実務上、所持品検査の限界(外部からの接触 vs 内部への手差し入れ)を判断する基準として重要。また、違法収集証拠排除法則の具体的判断枠組み(重大な違法+抑制の見地からの不相当性)を示したリーディングケースであり、答案上は「違法ではあるが排除されない」という二段階の論法で使用する。
事件番号: 昭和62(あ)944 / 裁判年月日: 昭和63年9月16日 / 結論: 棄却
警察官が被告人をその意思に反して警察署に連行したうえ、その状況を直接利用して所持品検査及び採尿を行つた場合に、その手続に違法があつても、連行の際に被告人が落とした紙包みの中味が覚せい剤であると判断され、その時点で被告人を逮捕することが許された本件事情の下では(判文参照)、その違法の程度はいまだ重大であるとはいえず、右手…
事件番号: 平成6(あ)187 / 裁判年月日: 平成6年9月16日 / 結論: 棄却
一 身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、いわゆる強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができる。 二 覚せい剤使用の嫌疑のある被疑者に対し、自動車のエンジンキーを取り上げるなどして運転を阻止した上、任意同行を求めて約六時…