一 身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、いわゆる強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができる。 二 覚せい剤使用の嫌疑のある被疑者に対し、自動車のエンジンキーを取り上げるなどして運転を阻止した上、任意同行を求めて約六時間半以上にわたり職務質問の現場に留め置いた警察官の措置は、任意捜査として許容される範囲を逸脱し、違法であるが、被疑者が覚せい剤中毒をうかがわせる異常な言動を繰り返していたことなどから運転を阻止する必要性が高く、そのために警察官が行使した有形力も必要最小限度の範囲にとどまり、被疑者が自ら運転することに固執して任意同行をかたくなに許否し続けたために説得に長時間を要したものであるほか、その後引き続き行われた強制採尿手続自体に違法がないなどの判示の事情の下においては、右一連の手続を全体としてみてもその違法の程度はいまだ重大であるとはいえず、右強制採尿手続により得られた尿についての鑑定書の証拠能力は否定されない。
一 いわゆる強制採尿令状により採尿場所まで連行することの適否 二 任意同行を求めるため被疑者を職務質問の現場に長時間違法に留め置いたとしてもその後の強制採尿手続により得られた尿の鑑定書の証拠能力は否定されないとされた事例
刑訴法99条,刑訴法102条,刑訴法218条,刑訴法219条,刑訴法222条,刑訴法317条,警察官職務執行法2条1項,警察官職務執行法2条2項,警察官職務執行法2条3項,道路交通法67条3項
判旨
先行する留め置き行為が任意捜査の限界を超え違法であっても、その違法が重大でなく、かつ最終的な強制採尿手続自体が適法であれば、得られた証拠の証拠能力は否定されない。
問題の所在(論点)
1. 長時間の留め置き及びエンジンキーの取り上げ等の適法性(任意捜査の限界)。 2. 強制採尿令状に基づく連行の適法性。 3. 先行手続に違法がある場合における、最終的に得られた鑑定書の証拠能力。
規範
1. 違法収集証拠排除法則につき、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来の違法捜査抑制の見地から相当でないと認められる場合には、証拠能力が否定される。 2. 最終的な手続自体に違法がなくとも、先行する一連の手続に違法がある場合は、その違法の有無・程度を考慮して全体の適法性を判断する。 3. 強制採尿令状の効力として、被疑者を採尿に適する最寄りの場所まで連行することができ、その際、必要最小限度の有形力を行使し得る。
重要事実
覚せい剤使用の嫌疑がある被告人に対し、警察官が職務質問を開始。運転を阻止するためエンジンキーを取り上げ、被告人が任意同行を拒否し続けたため、現場に約6時間半にわたり留め置いた。この間、警察官は被告人が車に乗り込むのを阻止する等の有形力を行使した。その後、強制採尿令状に基づき、激しく抵抗する被告人を病院へ連行し、医師がカテーテルで採尿した。なお、令状の疎明資料は留め置きが違法となる前の段階で収集されていた。
あてはめ
1. キーの取り上げは交通危険防止の応急措置(道交法67条3項)等として適法だが、6時間半の留め置きは移動の自由を長時間奪うもので任意捜査の限界を逸脱し違法である。 2. ももっとも、行使された有形力は必要最小限度で、交通警察上の必要性も高く、当初から違法な留め置きを企図したものでもないため、令状主義を没却するほどの重大な違法とはいえない。 3. 強制採尿令状の効力として、同行不能な場合の連行は適法であり、連行時の有形力も許容範囲内である。令状発付手続自体も適法になされている。 4. 以上より、一連の手続を全体としてみても、証拠排除が相当なほど重大な違法があるとは認められない。
結論
本件留め置きには一部違法があるが、重大な違法とはいえず、強制採尿手続自体も適法であるため、採取された尿の鑑定書には証拠能力が認められる。
実務上の射程
任意捜査の限界を超えた違法な留め置きがある事案において、先行手続の違法を「承継」させて証拠排除を検討する際の枠組み(違法の重大性・排除の相当性)を示す。また、強制採尿令状に伴う連行の適法根拠として実務上極めて重要である。
事件番号: 昭和62(あ)944 / 裁判年月日: 昭和63年9月16日 / 結論: 棄却
警察官が被告人をその意思に反して警察署に連行したうえ、その状況を直接利用して所持品検査及び採尿を行つた場合に、その手続に違法があつても、連行の際に被告人が落とした紙包みの中味が覚せい剤であると判断され、その時点で被告人を逮捕することが許された本件事情の下では(判文参照)、その違法の程度はいまだ重大であるとはいえず、右手…