警察官が,被告人の自動車内にチャック付きビニール袋を確認した旨の疎明資料を作成して同車に対する捜索差押許可状及び強制採尿令状を請求して上記各令状の発付を受け,同車内から覚醒剤等の薬物を差し押さえ,被告人から尿の任意提出を受けたなどの本件の事実経過(判文参照)の下では,同薬物並びに同薬物及び被告人の尿に関する各鑑定書の証拠能力の判断に当たり,警察官が上記ビニール袋は同車内になかったのに上記疎明資料を作成して上記各令状を請求した事実の存否を確定せず,その存否を前提に上記各証拠の収集手続に重大な違法があるかどうかを判断しないまま,証拠能力が否定されないとした原判決は,法令の解釈適用を誤った違法があり,刑訴法411条1号により破棄を免れない。 (補足意見がある。)
違法収集証拠として証拠能力を否定した第1審の訴訟手続に法令違反があるとした原判決に,法令の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
刑訴法1条,刑訴法317条,刑訴法411条1号
判旨
違法収集証拠排除法則の適用に際し、収集手続の重大な違法を基礎付ける事実の存否に争いがある場合、裁判所は立証責任に従って当該事実の存否を確定した上で、証拠能力の有無を判断すべきである。虚偽の疎明資料による令状請求という重大な違法事実の存否を確定せず、疑いの程度の考慮のみで証拠能力を認めることは、法令の解釈適用の誤りとして許されない。
問題の所在(論点)
違法収集証拠排除法則を適用する前提となる「違法を基礎付ける事実(本件では疎明資料の捏造)」の存否について、裁判所が確定的な認定を避け、疑いの程度の評価に留めて証拠能力を判断することが許されるか。
規範
証拠物の押収等の手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合、その証拠能力は否定される。この判断の基礎となる事実の存否に争いがあるときは、検察官がその不存在について立証責任を負い、立証に失敗すれば当該事実があったものとして違法の重大性を判断すべきである。
事件番号: 令和3(あ)711 / 裁判年月日: 令和4年4月28日 / 結論: 破棄自判
被疑者に対して強制採尿を実施することが「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合とは認められないのにされた強制採尿令状の発付は違法であり、警察官らが同令状に基づいて強制採尿を実施した行為も違法であるが、警察官らはありのままを記載した疎明資料を提出して同令状を請求し、裁判官の審査を経て発付された適式の同令状に基づき強制採尿を実…
重要事実
警察官は、職務質問中に被告人の車両のドアポケットから空のビニール袋束を発見したとして、これを疎明資料に含めて捜索差押許可状等を請求し、発付を受けた。しかし、第1審は「ビニール袋はもともと車内になかった(警察官による捏造)」という本件事実の疑いが払拭できないとして、証拠収集手続の重大な違法を認め、覚醒剤等の証拠能力を否定した。これに対し原審は、捏造の疑いは濃厚ではないとの理由で、事実の存否を確定させずに証拠能力を肯定したため、被告人が上告した。
あてはめ
本件各証拠(覚醒剤、鑑定書等)の証拠能力を判断するには、その収集手続の分水嶺となる「本件事実(ビニール袋の捏造)」の存否を確定させることが不可欠である。原審は、本件事実の疑いが残ることを認めつつ、その疑いが濃厚ではないという程度の評価をもって、排除の必要性を否定した。これは、事実認定の基礎となる立証責任の原則を看過し、重大な違法事由の存否をあいまいにしたまま証拠能力を肯定するものであり、将来の違法捜査抑制という観点からも不適切である。したがって、本件事実の存否を確定させるための審理を尽くすべきである。
結論
原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
違法収集証拠の論述において、違法性の程度を基礎付ける具体的な事実(捏造や暴力等)に争いがある場合の認定手法を示す射程を持つ。答案上は、単に「疑いがある」とするのではなく、立証責任の所在(検察官側)を明示した上で、認定された事実に基づき重大な違法か否かを二段構えで論じる必要がある。
事件番号: 平成8(あ)867 / 裁判年月日: 平成8年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】違法に収集された証拠であっても、証拠収集の手続に憲法上の適正手続の保障を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来の違法捜査抑制の見地から不相当と認められない限り、その証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:警察官らが被告人に対して所持品検査を実施した。当該所持品検査の…