公開買付けを担当する部署に所属する証券会社の従業者が,同部署に所属する他の従業者が同社と公開買付者との契約の締結に関し知った公開買付けの実施に関する事実について,同部署の共有フォルダ内の一覧表に社名が特定されないように記入された情報と,同部署の担当業務に関する当該他の従業者の不注意による発言を組み合わせることにより,公開買付者の社名及び公開買付者の業務執行を決定する機関がその上場子会社の株券の公開買付けを行うことについての決定をしたことまで知った上,公開買付者の有価証券報告書を閲覧して上記子会社を特定し,上記事実を知るに至ったという本件事実関係の下では,自らの調査により上記子会社を特定したとしても,上記事実を知ったことは金融商品取引法167条1項6号にいう「その者の職務に関し知ったとき」に当たる。
金融商品取引法167条1項6号にいう「その者の職務に関し知ったとき」に当たるとされた事例
金融商品取引法167条1項6号
判旨
金融商品取引法167条1項6号にいう「職務に関し知つた」とは、従業者等の立場ゆえにアクセス可能な情報や他従業者の職務上の発言等を通じて事実を知るに至った場合を指し、その後に自らの調査を組み合わせて事実を特定したとしても同号に該当する。
問題の所在(論点)
金融商品取引法167条1項6号(公開買付者等と契約を締結している法人の他の従業者)において、不注意による発言の聞き取りや自らの調査を介して事実を知った場合でも「職務に関し知つた」といえるか。
規範
「職務に関し知つた」とは、法人が契約の締結等に関し事実を知った場合に、当該法人の他の従業者が、その立場の者がアクセスできる情報や、他の従業者の担当業務に関する発言等を端緒として事実を知るに至った場合を含む。自らの調査を組み合わせて事実(対象会社等)を特定したとしても、証券市場の公正性・健全性に対する一般投資家の信頼確保という法の目的に照らし、職務との密接関連性が認められる限り同要件を充たす。
事件番号: 平成13(あ)12 / 裁判年月日: 平成15年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧証券取引法166条1項4号(現行金融商品取引法166条1項4号)にいう「当該契約の履行に関し」とは、契約を締結したことで重要事実を知り得る立場に立った者が、その契約に予定された義務の履行や権利の行使、またはこれに密接に関連する交渉等の過程で重要事実を知ることを指し、当該契約自体が重要事実を前提と…
重要事実
証券会社F部に所属する被告人は、同部のジュニア職員が共有フォルダ内の一覧表に記入した案件概要(社名は伏字)を閲覧し、公開買付けのスキームを把握した。その後、隣席の同僚が不注意により顧客名「C」を口にするのを聞き、公開買付者がC社であることを知った。さらに被告人は、ネット上でC社の有価証券報告書を閲覧し、対象となる上場子会社がD社のみであることを確認して、本件公開買付けの事実を特定した上で、知人Eに伝達して株券を買い付けさせた。
あてはめ
被告人は、F部所属の従業者という立場ゆえにアクセス可能な共有フォルダから案件の核心部分(公開買付けの決定)を把握している。また、同僚の「C」という発言も、F部の業務遂行過程で生じた職務上の情報である。これらを組み合わせることで公開買付主体を特定しており、その後の有価証券報告書の閲覧による対象会社の特定は、職務を通じて得た情報を補完・確認する行為にすぎない。したがって、一連の知得過程は被告人の職務と密接に関連しており、「職務に関し」たものと評価できる。
結論
被告人が本件公開買付けの実施に関する事実を知ったことは、同法167条1項6号にいう「その者の職務に関し知つたとき」に当たり、インサイダー取引規制(伝達・取引推奨)に抵触する。
実務上の射程
内部者取引における「職務に関し」の意義を広く解釈し、職務上の過失による漏洩(聞き耳)や公知情報による補足(ネット検索)があった場合でも、職務が知得の端緒であれば射程に含めることを示した。答案上は、職務と知得の因果関係を、その立場や場所的状況(同室内での執務等)から論証する際の根拠となる。
事件番号: 平成27(あ)168 / 裁判年月日: 平成28年11月28日 / 結論: 棄却
1 情報源を公にしないことを前提とした報道機関に対する重要事実の伝達は,たとえその主体が金融商品取引法施行令(平成23年政令第181号による改正前のもの)30条1項1号に該当する者であったとしても,同号にいう重要事実の報道機関に対する「公開」には当たらない。 2 会社の意思決定に関する重要事実を内容とする報道がされたと…
事件番号: 平成25(あ)1676 / 裁判年月日: 平成27年4月8日 / 結論: 棄却
1 金融商品取引法(平成20年法律第65号による改正前のもの)166条1項1号にいう「役員,代理人,使用人その他の従業者」とは,上場会社等の役員,代理人,使用人のほか,現実に当該上場会社等の業務に従事している者を意味し,当該上場会社等との委任,雇用契約等に基づいて職務に従事する義務の有無や形式上の地位・呼称のいかんを問…
事件番号: 平成21(あ)375 / 裁判年月日: 平成23年6月6日 / 結論: 棄却
証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」をしたというためには,同項にいう「業務執行を決定する機関」において,公開買付け等の実現を意図して,公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り,公開買付け等の実現可能性がある…
事件番号: 平成10(あ)1146 / 裁判年月日: 平成11年6月10日 / 結論: 破棄差戻
一 証券取引法一六六条二項一号にいう「業務執行を決定する機関」は、商法所定の決定権限のある機関には限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りる。 二 証券取引法一六六条二項一号にいう株式の発行を行うことについての「決定」をしたとは、業務執行を決定する機関において、株式の…