1 情報源を公にしないことを前提とした報道機関に対する重要事実の伝達は,たとえその主体が金融商品取引法施行令(平成23年政令第181号による改正前のもの)30条1項1号に該当する者であったとしても,同号にいう重要事実の報道機関に対する「公開」には当たらない。 2 会社の意思決定に関する重要事実を内容とする報道がされたとしても,情報源が公にされない限り,金融商品取引法(平成23年法律第49号による改正前のもの)166条1項によるインサイダー取引規制の効力が失われることはない。
1 情報源を公にしないことを前提とした報道機関に対する重要事実の伝達と金融商品取引法施行令(平成23年政令第181号による改正前のもの)30条1項1号にいう「公開」 2 情報源が公にされることなく会社の意思決定に関する重要事実を内容とする報道がされた場合における金融商品取引法(平成23年法律第49号による改正前のもの)166条1項によるインサイダー取引規制の効力
金融商品取引法(平成23年法律第49号による改正前のもの)166条1項3号,金融商品取引法(平成23年法律第49号による改正前のもの)166条2項1号ヌ,金融商品取引法(平成23年法律第49号による改正前のもの)166条4項,金融商品取引法施行令(平成23年政令第181号による改正前のもの)30条1項1号,金融商品取引法施行令(平成23年政令第181号による改正前のもの)30条2項
判旨
金融商品取引法166条1項に規定するインサイダー取引規制について、情報源を公にしないことを前提とした報道機関に対する重要事実の伝達は、施行令30条1項1号にいう「公開」には当たらない。また、法令所定の公表手続がとられない限り、重要事実の内容が報道され公知の状態になったとしても、同規制の効力は失われない。
問題の所在(論点)
1. 情報源を伏せた状態での報道機関への情報伝達が、施行令30条1項1号の「公開」に該当するか。 2. 法令所定の公表手続を欠くものの、報道により事実が公知となった場合、インサイダー取引規制の効力が失われるか。
規範
1. 施行令30条1項1号の「二以上の報道機関に対して公開」とは、投資家において、報道内容が同号所定の主体により公開された情報に基づくものであることを確定的に知ることができる態様で行われることを要する。したがって、情報源を公にしないことを前提とした伝達はこれに当たらない。 2. 会社の意思決定に関する重要事実が報道により公知となったとしても、法令上の公表手続を経ない限り、インサイダー取引規制の効力は失われない。公表方法を限定列挙した法の趣旨(市場の公正確保及び基準の明確化)から、情報源が不明な報道に「公表」と実質的に同一の効果を認めることはできない。
事件番号: 令和3(あ)96 / 裁判年月日: 令和4年2月25日 / 結論: 棄却
公開買付けを担当する部署に所属する証券会社の従業者が,同部署に所属する他の従業者が同社と公開買付者との契約の締結に関し知った公開買付けの実施に関する事実について,同部署の共有フォルダ内の一覧表に社名が特定されないように記入された情報と,同部署の担当業務に関する当該他の従業者の不注意による発言を組み合わせることにより,公…
重要事実
経済産業省の審議官であった被告人は、職務上、上場会社であるNECエレクトロニクス社(以下「N社」)が他社と合併する旨の決定(本件重要事実)を知り、これが公表される前に、妻名義でN社株式を買い付けた。当時、日本経済新聞等により本件重要事実を推知させる報道がなされていたが、いずれも情報源は明示されていなかった。被告人は、当該報道により重要事実は「公表」されたものとして規制対象外になった、あるいは「公知」となり重要事実性を喪失したと主張して争った。
あてはめ
1. 本件各報道には情報源が明示されておらず、報道内容からも情報源を特定できない。仮に情報源がN社の代表取締役等であったとしても、それは情報源を公にしない前提での伝達といえるから、施行令30条1項1号の「公開」には当たらず、法166条4項の「公表」があったとは認められない。 2. 被告人は、報道により事実が公知となり「重要事実」性を喪失したと主張するが、公表方法を限定的に定めた法の趣旨に照らせば、情報源が公にされない限り規制の効力は維持される。したがって、本件報道をもって規制を免れることはできない。
結論
被告人の行為は、重要事実の公表前になされたインサイダー取引に該当する。第1審判決を是認した原判断は正当である。
実務上の射程
インサイダー取引規制における「公表」の意義を厳格に解釈し、リーク記事や情報源不明の観測報道が出たとしても、法定の公表手続(適時開示や12時間ルール等)が完了するまでは規制が解除されないことを明確にした。
事件番号: 平成13(あ)12 / 裁判年月日: 平成15年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧証券取引法166条1項4号(現行金融商品取引法166条1項4号)にいう「当該契約の履行に関し」とは、契約を締結したことで重要事実を知り得る立場に立った者が、その契約に予定された義務の履行や権利の行使、またはこれに密接に関連する交渉等の過程で重要事実を知ることを指し、当該契約自体が重要事実を前提と…
事件番号: 平成21(あ)375 / 裁判年月日: 平成23年6月6日 / 結論: 棄却
証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」をしたというためには,同項にいう「業務執行を決定する機関」において,公開買付け等の実現を意図して,公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り,公開買付け等の実現可能性がある…
事件番号: 平成10(あ)1146 / 裁判年月日: 平成11年6月10日 / 結論: 破棄差戻
一 証券取引法一六六条二項一号にいう「業務執行を決定する機関」は、商法所定の決定権限のある機関には限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りる。 二 証券取引法一六六条二項一号にいう株式の発行を行うことについての「決定」をしたとは、業務執行を決定する機関において、株式の…
事件番号: 平成25(あ)1676 / 裁判年月日: 平成27年4月8日 / 結論: 棄却
1 金融商品取引法(平成20年法律第65号による改正前のもの)166条1項1号にいう「役員,代理人,使用人その他の従業者」とは,上場会社等の役員,代理人,使用人のほか,現実に当該上場会社等の業務に従事している者を意味し,当該上場会社等との委任,雇用契約等に基づいて職務に従事する義務の有無や形式上の地位・呼称のいかんを問…