証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」をしたというためには,同項にいう「業務執行を決定する機関」において,公開買付け等の実現を意図して,公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り,公開買付け等の実現可能性があることが具体的に認められることは要しない。
証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」の意義
証券取引法(平成16年法律第97号による改正前のもの)167条1項,証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条2項,証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条3項,証券取引法施行令(平成17年政令第19号による改正前のもの)31条
判旨
旧証券取引法167条2項の「公開買付け等を行うことについての決定」とは、業務執行決定機関が公開買付け等の実現を意図して、その実施または準備作業を会社の業務として行う旨を決定すれば足り、具体的に実現可能性があることまでは不要である。また、代表取締役らが他の取締役から経営判断を委ねられている場合、その意思決定は「業務執行を決定する機関」の決定にあたる。
問題の所在(論点)
1. 非常勤取締役が存在し、取締役会決議を経ていない場合でも、代表者らの意思決定は「業務執行を決定する機関」の決定といえるか。 2. インサイダー取引規制の対象となる「決定」には、客観的な実現可能性が必要か。
規範
1. 業務執行を決定する機関:取締役会等の法定の意思決定機関に限らず、実質的に法人の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関を含む。 2. 公開買付け等を行うことについての決定:公開買付け等の実現を意図して、公開買付け等またはそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足りる。客観的・具体的な実現可能性があることまでは要しないが、実現可能性が全くあるいは殆ど存在せず、投資判断に影響を及ぼす実質を欠く場合は除外される。
事件番号: 平成10(あ)1146 / 裁判年月日: 平成11年6月10日 / 結論: 破棄差戻
一 証券取引法一六六条二項一号にいう「業務執行を決定する機関」は、商法所定の決定権限のある機関には限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りる。 二 証券取引法一六六条二項一号にいう株式の発行を行うことについての「決定」をしたとは、業務執行を決定する機関において、株式の…
重要事実
被告人Bは投資顧問会社Aの経営者であり、ライブドア(F社)の代表者Eらに対し、ニッポン放送(C社)株の買集めを提案した。Eらはこれに強い興味を示し、資金調達等の検討を指示した後、2004年11月8日までに3分の1を目標にC株を購入する作業を進める旨を決定した(本件決定)。同日、BはEらからこの方針を伝達された。F社の他の取締役2名は非常勤であり、経営判断をEらに委ねていた。Bは伝達を受けた翌日から、A社の運用口座で多量のC株を買い付けた。
あてはめ
1. F社の非常勤取締役はEらの経営判断を信頼し、資金調達等の作業遂行を委ねていた。したがって、Eらは実質的にF社の意思決定と同視し得る機関に該当する。 2. 証券取引法167条は予測可能性を高めるため、決定の事実があれば投資判断に影響を及ぼすと擬制している。本件当時、F社には多額の現預金や社債発行の提案があり、実現可能性が全くない状況ではなかった。したがって、Eらが買集め作業を業務として行う旨を決定した時点で、同条2項の「決定」に該当する。
結論
被告人B及び被告会社Aには、公開買付者等関係者から伝達を受けた者による禁止取引(旧証券取引法167条3項違反)が成立する。
実務上の射程
インサイダー取引規制における「決定」の意義を、投資者保護の観点から広く捉えた重要判例である。実務上、正式な取締役会決議がない段階(実質的決定)や、具体的な資金調達が完了する前の検討段階であっても、業務として進める方針が固まれば「事実の発生」として認められる。答案では「実現可能性」を要件とする下級審の判断を否定し、成立時期を早めている点に注目して論じるべきである。
事件番号: 平成13(あ)12 / 裁判年月日: 平成15年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧証券取引法166条1項4号(現行金融商品取引法166条1項4号)にいう「当該契約の履行に関し」とは、契約を締結したことで重要事実を知り得る立場に立った者が、その契約に予定された義務の履行や権利の行使、またはこれに密接に関連する交渉等の過程で重要事実を知ることを指し、当該契約自体が重要事実を前提と…
事件番号: 令和3(あ)96 / 裁判年月日: 令和4年2月25日 / 結論: 棄却
公開買付けを担当する部署に所属する証券会社の従業者が,同部署に所属する他の従業者が同社と公開買付者との契約の締結に関し知った公開買付けの実施に関する事実について,同部署の共有フォルダ内の一覧表に社名が特定されないように記入された情報と,同部署の担当業務に関する当該他の従業者の不注意による発言を組み合わせることにより,公…
事件番号: 平成25(あ)1676 / 裁判年月日: 平成27年4月8日 / 結論: 棄却
1 金融商品取引法(平成20年法律第65号による改正前のもの)166条1項1号にいう「役員,代理人,使用人その他の従業者」とは,上場会社等の役員,代理人,使用人のほか,現実に当該上場会社等の業務に従事している者を意味し,当該上場会社等との委任,雇用契約等に基づいて職務に従事する義務の有無や形式上の地位・呼称のいかんを問…
事件番号: 平成27(あ)168 / 裁判年月日: 平成28年11月28日 / 結論: 棄却
1 情報源を公にしないことを前提とした報道機関に対する重要事実の伝達は,たとえその主体が金融商品取引法施行令(平成23年政令第181号による改正前のもの)30条1項1号に該当する者であったとしても,同号にいう重要事実の報道機関に対する「公開」には当たらない。 2 会社の意思決定に関する重要事実を内容とする報道がされたと…