1 金融商品取引法(平成20年法律第65号による改正前のもの)166条1項1号にいう「役員,代理人,使用人その他の従業者」とは,上場会社等の役員,代理人,使用人のほか,現実に当該上場会社等の業務に従事している者を意味し,当該上場会社等との委任,雇用契約等に基づいて職務に従事する義務の有無や形式上の地位・呼称のいかんを問わない。 2 上場会社の実質的な大株主であり,同社の役員,代理人,使用人には当たらないが,代表取締役と随時協議するなどして同社の財務及び人事等の重要な業務執行の決定に関与するという形態で現実に同社の業務に従事していた被告人は,金融商品取引法(平成20年法律第65号による改正前のもの)166条1項1号にいう「その他の従業者」に当たる。
1 金融商品取引法(平成20年法律第65号による改正前のもの)166条1項1号にいう「役員,代理人,使用人その他の従業者」の意義 2 金融商品取引法(平成20年法律第65号による改正前のもの)166条1項1号にいう「その他の従業者」に当たるとされた事例
(1,2につき)金融商品取引法 (平成20年法律第65号による改正前のもの) 166条1項1号,金融商品取引法 (平成20年法律第65号による改正前のもの) 197条の2第13号
判旨
金融商品取引法166条1項1号にいう「その他の従業者」とは、当該上場会社等の役員、代理人、使用人のほか、現実に当該上場会社等の業務に従事している者を意味し、当該上場会社等との委任、雇用契約等に基づいて職務に従事する義務の有無や形式上の地位・呼称のいかんを問わない。
問題の所在(論点)
金融商品取引法166条1項1号に規定される「その他の従業者」に、契約関係や形式上の役職を持たないが、大株主として実質的に経営を支配し業務に従事している者が含まれるか。
規範
金融商品取引法(以下「法」)166条1項1号が、上場会社等の「役員、代理人、使用人その他の従業者」によるインサイダー取引を禁止している趣旨は、会社の重要事実にアクセスし得る特別な立場にある者が、情報を利用して証券取引を行う不公平性を排除し、市場の公正性と信頼を確保することにある。かかる趣旨に鑑みれば、同号にいう「その他の従業者」とは、役員等に限定されず、現実に当該上場会社等の業務に従事している者を意味すると解すべきである。この際、当該上場会社等との間で契約等に基づく職務従事義務が存在するか、あるいは形式上の地位や呼称を有しているかは問わない。
事件番号: 令和3(あ)96 / 裁判年月日: 令和4年2月25日 / 結論: 棄却
公開買付けを担当する部署に所属する証券会社の従業者が,同部署に所属する他の従業者が同社と公開買付者との契約の締結に関し知った公開買付けの実施に関する事実について,同部署の共有フォルダ内の一覧表に社名が特定されないように記入された情報と,同部署の担当業務に関する当該他の従業者の不注意による発言を組み合わせることにより,公…
重要事実
被告人は、借名口座や支配下にある会社等を通じて上場会社A社の発行済株式総数の4割以上を実質的に把握する大株主であった。被告人はA社の代表取締役との間で「役員人事や資本政策については事前に被告人に相談する」旨の取決めを交わし、概ね2週間に1度の頻度で面談。重要な業務執行について了承を求められ、自身の意向を業務に反映させていた。また、新規事業や増資等の提案を行い、対外交渉や意思決定会議にも出席して意見を述べるなど、A社の財務・人事等の重要事項の決定に関与していた。被告人はこの職務に関し、新株式発行増資等の重要事実を知り、公表前にA社株式の売買を行った。
あてはめ
被告人は、形式上の役職や雇用契約はないものの、代表取締役と随時協議し、財務や人事といった重要な業務執行の決定に深く関与していた。これは、現実にA社の業務に従事していたものといえる。法の趣旨は情報の非対称性を利用した不公正取引の防止にあるところ、被告人のような立場は、重要事実に容易にアクセスできる「特別な立場」に他ならない。したがって、被告人が形式的な契約関係にない大株主であったとしても、実質的に業務を遂行している以上、「その他の従業者」に該当すると評価される。
結論
被告人は法166条1項1号にいう「その他の従業者」に該当し、本件インサイダー取引について同条違反の罪が成立する。
実務上の射程
本決定は、インサイダー取引規制の対象となる「会社関係者」の範囲を、形式的な契約関係や呼称にとらわれず、実質的な業務従事の有無によって判断する枠組みを明確にした。これにより、実質的経営者やシャドウ・ディレクターによる情報利用取引も広く規制対象となることが示された。
事件番号: 平成21(あ)375 / 裁判年月日: 平成23年6月6日 / 結論: 棄却
証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」をしたというためには,同項にいう「業務執行を決定する機関」において,公開買付け等の実現を意図して,公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り,公開買付け等の実現可能性がある…
事件番号: 平成13(あ)12 / 裁判年月日: 平成15年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧証券取引法166条1項4号(現行金融商品取引法166条1項4号)にいう「当該契約の履行に関し」とは、契約を締結したことで重要事実を知り得る立場に立った者が、その契約に予定された義務の履行や権利の行使、またはこれに密接に関連する交渉等の過程で重要事実を知ることを指し、当該契約自体が重要事実を前提と…
事件番号: 平成10(あ)1146 / 裁判年月日: 平成11年6月10日 / 結論: 破棄差戻
一 証券取引法一六六条二項一号にいう「業務執行を決定する機関」は、商法所定の決定権限のある機関には限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りる。 二 証券取引法一六六条二項一号にいう株式の発行を行うことについての「決定」をしたとは、業務執行を決定する機関において、株式の…
事件番号: 平成27(あ)168 / 裁判年月日: 平成28年11月28日 / 結論: 棄却
1 情報源を公にしないことを前提とした報道機関に対する重要事実の伝達は,たとえその主体が金融商品取引法施行令(平成23年政令第181号による改正前のもの)30条1項1号に該当する者であったとしても,同号にいう重要事実の報道機関に対する「公開」には当たらない。 2 会社の意思決定に関する重要事実を内容とする報道がされたと…