一 証券取引法一六六条二項一号にいう「業務執行を決定する機関」は、商法所定の決定権限のある機関には限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りる。 二 証券取引法一六六条二項一号にいう株式の発行を行うことについての「決定」をしたとは、業務執行を決定する機関において、株式の発行それ自体や株式の発行に向けた作業等を会社の業務として行う旨を決定したことをいい、右機関において株式の発行の実現を意図して行ったことを要するが、当該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しない。
一 証券取引法一六六条二項一号にいう「業務執行を決定する機関」の意義 二 証券取引法一六六条二項一号にいう株式の発行を行うことについての「決定」の意義
証券取引法166条2項1号イ,証券取引法(平成10年法律107号による改正前のもの)166条1項
判旨
インサイダー取引規制における「業務執行を決定する機関」の「決定」とは、株式発行の実現を意図して行ったことを指し、当該事項が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しない。
問題の所在(論点)
旧証券取引法166条2項1号(現行金融商品取引法163条2項1号等)にいう、インサイダー取引の重要事実としての「業務執行を決定する機関」が「株式の発行」を行うことについて「決定」したといえるための要件。
規範
1.「業務執行を決定する機関」とは、商法上の法定決定権限ある機関に限らず、実質的に会社の意思決定と同視される意思決定を行いうる機関をいう。 2.「決定」とは、機関が株式発行それ自体やその作業を業務として行う旨を、実現を意図して決することをいい、実施の確実な予測は不要である。蓋然性を不要とするのは、決定の事実自体が投資判断に影響を及ぼしうること、及び証券市場の健全性への信頼確保と規制範囲の明確化という法の趣旨に合致するからである。
重要事実
事件番号: 平成21(あ)375 / 裁判年月日: 平成23年6月6日 / 結論: 棄却
証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」をしたというためには,同項にいう「業務執行を決定する機関」において,公開買付け等の実現を意図して,公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り,公開買付け等の実現可能性がある…
上場会社Aの親会社Bから派遣された代表取締役Dは、M&A交渉の枠組みとしてAによる第三者割当増資の実施を企図していた。Dは、親会社Cが株式譲渡に難色を示す中、Bの常務に対し「今回は是非実現したい」と述べ、増資実施の意向を外部的に明らかにした。その後、交渉相手方の監査役兼弁護士であった被告人は、Cの方針変更により交渉が決着したことを知り、公表前にA社株式を買い付けた。
あてはめ
Dは代表取締役として取締役会から実質的な決定権限を付与されており「業務執行を決定する機関」にあたる。また、DがBの常務に対し増資を行う旨の決定を言明し、外部的に明らかにしたことは、株式発行の実現を意図したものといえる。当時、親会社Cとの譲渡方法が最終決着していなかったとしても、実施の確実な予測は不要であるから、Dが言明した時点で「決定」があったと認められる。
結論
Dの言明をもって重要事実の「決定」があったと認められ、それ以降に公表前に行われた被告人の売買は、インサイダー取引規制に違反する。
実務上の射程
インサイダー取引規制における「決定」の時期を大幅に早める判例であり、実務上、正式な取締役会決議以前であっても、実質的な決定があれば規制対象となる。司法試験では、機関決定の有無を検討する際、商法上の権限にとらわれず実態で判断し、実現可能性の多寡を問わず「意図」の有無で規範を立てるべきである。
事件番号: 平成13(あ)12 / 裁判年月日: 平成15年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧証券取引法166条1項4号(現行金融商品取引法166条1項4号)にいう「当該契約の履行に関し」とは、契約を締結したことで重要事実を知り得る立場に立った者が、その契約に予定された義務の履行や権利の行使、またはこれに密接に関連する交渉等の過程で重要事実を知ることを指し、当該契約自体が重要事実を前提と…
事件番号: 平成9(あ)1232 / 裁判年月日: 平成11年2月16日 / 結論: 破棄差戻
新薬発売直後の死亡例を含む重篤な副作用症例の発生は、当該新薬が医薬品の卸販売では高い業績を挙げていたものの製薬業者としての評価が低かった会社において多額の資金を投じ実質上初めて開発し、有力製品として期待していたものである上、同社の株価の高値維持にも寄与していたものであるなどの事情の下では、証券取引法(平成五年法律第四四…
事件番号: 平成25(あ)1676 / 裁判年月日: 平成27年4月8日 / 結論: 棄却
1 金融商品取引法(平成20年法律第65号による改正前のもの)166条1項1号にいう「役員,代理人,使用人その他の従業者」とは,上場会社等の役員,代理人,使用人のほか,現実に当該上場会社等の業務に従事している者を意味し,当該上場会社等との委任,雇用契約等に基づいて職務に従事する義務の有無や形式上の地位・呼称のいかんを問…
事件番号: 平成27(あ)168 / 裁判年月日: 平成28年11月28日 / 結論: 棄却
1 情報源を公にしないことを前提とした報道機関に対する重要事実の伝達は,たとえその主体が金融商品取引法施行令(平成23年政令第181号による改正前のもの)30条1項1号に該当する者であったとしても,同号にいう重要事実の報道機関に対する「公開」には当たらない。 2 会社の意思決定に関する重要事実を内容とする報道がされたと…