新薬発売直後の死亡例を含む重篤な副作用症例の発生は、当該新薬が医薬品の卸販売では高い業績を挙げていたものの製薬業者としての評価が低かった会社において多額の資金を投じ実質上初めて開発し、有力製品として期待していたものである上、同社の株価の高値維持にも寄与していたものであるなどの事情の下では、証券取引法(平成五年法律第四四号による改正前のもの)一六六条二項二号イ所定の損害の発生に該当し得る面のほか、右新薬に大きな問題があることを疑わせて、今後その販売に支障を来すのみならず、同社の特に製薬業者としての信用を更に低下させて、今後の業務の展開及び財産状態等に重要な影響を及ぼすことを予測させ、ひいて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼし得るという、同号イによっては包摂・評価され得ない面をも有する事実であって、これにつき同項四号の該当性を問題にすることが可能であり、前者の面があるとしてもそのために同号に該当する余地がなくなるものではない。
新薬に関する副作用症例の発生が証券取引法(平成五年法律第四四号による改正前のもの)一六六条二項二号イに該当し得る面を有していてもなお同項四号に該当する余地が否定されないとされた事例
証券取引法(平成5年法律第44号による改正前のもの)166条1項,証券取引法(平成5年法律第44号による改正前のもの)166条2項
判旨
インサイダー取引規制における「重要事実」に関し、ある事実が形式上の個別列挙事由(バスケット条項以外)に該当し得る側面を有していても、それとは異なる側面において投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす性質を有する場合には、バスケット条項(証券取引法166条2項4号、現行金融商品取引法166条2項4号)の適用があり得る。
問題の所在(論点)
証券取引法166条2項4号(バスケット条項)と、同項1号から3号までに掲げられた個別事由との関係。ある事実が個別事由(本件では2号イの「損害」)に該当し得る場合、当該個別事由の数値基準(軽微基準)を満たさない限り、4号を適用して重要事実と認定することは許されないのか。
規範
証券取引法166条2項1号から3号(現行金商法166条2項1号から3号)の各規定に掲げる業務等に関する重要事実に該当しない事実であっても、それらの事実が有する側面とは異なる別の重要な側面を有し、かつ投資者の投資判断に著しい影響を及ぼし得る事実であれば、同項4号(バスケット条項)の該当性を検討することができる。個別列挙事由(2号イ等)に該当し得る余地があるからといって、直ちに同項4号の適用が排除されるものではない。
事件番号: 平成13(あ)12 / 裁判年月日: 平成15年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧証券取引法166条1項4号(現行金融商品取引法166条1項4号)にいう「当該契約の履行に関し」とは、契約を締結したことで重要事実を知り得る立場に立った者が、その契約に予定された義務の履行や権利の行使、またはこれに密接に関連する交渉等の過程で重要事実を知ることを指し、当該契約自体が重要事実を前提と…
重要事実
被告人は、上場企業B社の新薬E(帯状ほう疹治療薬)について、フルオロウラシル系薬剤との併用により死亡例を含む重篤な副作用が発生したとの事実を知り、その公表前にB社株式を売り抜けた。B社にとって新薬Eは、製薬業者としての評価を左右する期待の有力製品であり、株価維持の要因でもあった。第一審は、副作用発生は「業務に起因する損害」(2号イ)の側面もあるが、額が軽微基準に達するか不明としつつ、今後の販売支障や信用低下という別個の重大な影響を重視して4号の重要事実に当たると判断したが、原審は2号イに該当し得る以上は4号適用の余地はないとして破棄したため、検察官が受理申し立てを行った。
あてはめ
本件副作用症例の発生は、被害者への損害賠償という点では2号イの「業務に起因する損害」に該当し得る。しかし、B社にとって新薬Eが実質上初めて開発した有力製品であり、今後の業務展開や製薬業者としての信用に直結する存在であったことに照らせば、副作用の発生は「今後の販売支障」や「企業の信用低下」という、単なる賠償損害とは異なる別の重要な側面を有している。この側面は2号イの「損害」としては評価し尽くせない性質のものであり、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼし得る。したがって、2号イの軽微基準を満たすか否かにかかわらず、別途4号の該当性を肯定することができる。
結論
原判決には同法166条2項4号の解釈適用の誤りがある。ある事実が個別事由に包摂され得る面があっても、それとは異なる重要な面を有する限り、バスケット条項による重要事実認定は妨げられない。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
バスケット条項(4号)の補充性を限定的に解釈し、個別事由の数値基準(軽微基準)による潜脱を防止する射程を持つ。答案上は、事案の事実が形式的な数値基準に達しない場合でも、企業価値や投資判断に与える質的な影響が甚大であれば、本判例を根拠に4号該当性を肯定する論理として活用できる。
事件番号: 平成19(あ)818 / 裁判年月日: 平成21年12月7日 / 結論: 破棄差戻
旧株式会社日本債券信用銀行の平成10年3月期の決算処理における支援先等に対する貸出金の査定に関して,資産査定通達等によって補充される平成9年7月31日改正後の決算経理基準は,新たな基準として直ちに適用するには明確性に乏しく,従来の税法基準の考え方による処理を排除して厳格に上記改正後の決算経理基準に従うべきことも必ずしも…
事件番号: 平成10(あ)1146 / 裁判年月日: 平成11年6月10日 / 結論: 破棄差戻
一 証券取引法一六六条二項一号にいう「業務執行を決定する機関」は、商法所定の決定権限のある機関には限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りる。 二 証券取引法一六六条二項一号にいう株式の発行を行うことについての「決定」をしたとは、業務執行を決定する機関において、株式の…
事件番号: 平成18(あ)2174 / 裁判年月日: 平成19年7月12日 / 結論: 棄却
1 出来高に関し他人に誤解を生じさせる目的は,価格操作ないし相場操縦の目的を伴わない場合でも,証券取引法(平成12年法律第96号による改正前のもの)159条1項柱書きにいう「取引が繁盛に行われていると誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的」に当たる。 2 いわゆる自己両建ての有価証券オプション取…
事件番号: 平成17(あ)1716 / 裁判年月日: 平成20年7月18日 / 結論: 破棄自判
旧株式会社日本長期信用銀行の平成10年3月期に係る有価証券報告書の提出及び配当に関する決算処理について,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準(判文参照)は,関連ノンバンク等に対する貸出金の資産査定に関しては,新たな基準として直ちに適用するには明確性に乏しく,従来のいわゆる税法基準の考え方による処理を排除…