旧株式会社日本長期信用銀行の平成10年3月期に係る有価証券報告書の提出及び配当に関する決算処理について,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準(判文参照)は,関連ノンバンク等に対する貸出金の資産査定に関しては,新たな基準として直ちに適用するには明確性に乏しく,従来のいわゆる税法基準の考え方による処理を排除して厳格に上記改正後の決算経理基準に従うべきことも必ずしも明確であったとはいえず,そのような過渡的な状況のもとでは,これまで「公正ナル会計慣行」として行われていた税法基準の考え方によったことは違法ではなく,同銀行の頭取らに対する虚偽記載有価証券報告書提出罪及び違法配当罪は成立しない。 (補足意見がある。)
旧株式会社日本長期信用銀行の平成10年3月期に係る有価証券報告書の提出及び配当に関する決算処理につき,これまで「公正ナル会計慣行」として行われていた税法基準の考え方によったことが違法とはいえないとして,同銀行の頭取らに対する虚偽記載有価証券報告書提出罪及び違法配当罪の成立が否定された事例
証券取引法(平成10年法律第107号による改正前のもの)197条1号,証券取引法(平成12年法律第96号による改正前のもの)207条1項1号,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)32条2項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)489条3号,商法(平成11年法律第125号による改正前のもの)285条の4第2項
判旨
計算書類の作成に当たり、特定の資産の評価等について依拠すべき具体的で確定的な会計基準が確立していない場合、取締役が既存の指針を合理的に解釈し、客観的・合理的な根拠に基づいて処理したときは、事後的にそれが不適切と判断されたとしても、直ちに企業会計原則等に違反するものとはいえない。
問題の所在(論点)
会計基準が改正・変遷する過渡期において、具体的な解釈指針が未確立な状況下でなされた会計処理が、商法上の企業会計原則(真実な報告)に違反し、違法な配当等にあたるか。
規範
取締役の計算書類作成義務(商法281条等)における企業会計原則等への適合性は、書類作成時点における会計慣行を基準に判断される。もっとも、新たな制度導入や基準改正の過渡期において、依拠すべき具体的基準が未確立な場合には、取締役が当時の知見に基づき、合理的な解釈と客観的根拠をもって行った会計処理は、適法なものとして容認される。事後的な評価をもって直ちに違法と断じることはできない。
事件番号: 平成19(あ)818 / 裁判年月日: 平成21年12月7日 / 結論: 破棄差戻
旧株式会社日本債券信用銀行の平成10年3月期の決算処理における支援先等に対する貸出金の査定に関して,資産査定通達等によって補充される平成9年7月31日改正後の決算経理基準は,新たな基準として直ちに適用するには明確性に乏しく,従来の税法基準の考え方による処理を排除して厳格に上記改正後の決算経理基準に従うべきことも必ずしも…
重要事実
日本債券信用銀行の頭取ら(被告人)は、平成10年3月期決算において、バブル崩壊後の不良債権について多額の償却・引当が必要な状況にあった。当時、金融再生法等に基づく「自己査定」制度が導入された直後であり、当局からの通知(404号通知等)により新たな償却・引当基準が示されていたが、具体的な数値基準や非上場の関連ノンバンクに対する適用細則は必ずしも明確ではなかった。被告人らは、当時の銀行連盟の考え方等を参照し、担保処分見込額等を加味した独自の「特定引当」基準を作成・適用して決算を行った。これに対し、検察側は新基準に従えば約3100億円の債務超過であったのに、これを隠蔽して配当を行った(商法違反・証券取引法違反)として起訴した。
あてはめ
まず、本件決算当時は自己査定制度の導入初期であり、特に「関連ノンバンク」に対する償却・引当基準について、一義的な確定基準が存在したとは認められない。次に、被告人らが依拠した基準は、当時の大蔵省や日銀の指導、銀行連盟による修正案等を踏まえたものであり、全く根拠のない恣意的なものとはいえない。また、改正通知の内容も定性的な指針にとどまっており、適用の細部には相当の幅(解釈の余地)が存在していたといえる。したがって、被告人らが当時の合理的な解釈の範囲内で実務慣行に即して行った処理は、当時の企業会計原則に照らして直ちに違法(虚偽記載)とは評価できない。
結論
被告人らの会計処理が直ちに企業会計原則等に違反するものとはいえないため、有罪とした原判決を破棄し、無罪とする。
実務上の射程
新会計基準への移行期や、解釈に幅がある専門的な会計処理について、取締役の判断が「著しく不合理」でない限り、刑事的・民事的な責任を否定する際の重要な考慮要素となる。
事件番号: 平成10(あ)1146 / 裁判年月日: 平成11年6月10日 / 結論: 破棄差戻
一 証券取引法一六六条二項一号にいう「業務執行を決定する機関」は、商法所定の決定権限のある機関には限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りる。 二 証券取引法一六六条二項一号にいう株式の発行を行うことについての「決定」をしたとは、業務執行を決定する機関において、株式の…
事件番号: 平成9(あ)1232 / 裁判年月日: 平成11年2月16日 / 結論: 破棄差戻
新薬発売直後の死亡例を含む重篤な副作用症例の発生は、当該新薬が医薬品の卸販売では高い業績を挙げていたものの製薬業者としての評価が低かった会社において多額の資金を投じ実質上初めて開発し、有力製品として期待していたものである上、同社の株価の高値維持にも寄与していたものであるなどの事情の下では、証券取引法(平成五年法律第四四…
事件番号: 平成19(あ)1462 / 裁判年月日: 平成22年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上の任務に背き、他者の利益を図り本人に損害を与える目的(図利加害目的)をもって、実態のない形式的な取引を行い、会社資金を流出させた行為は、背任罪(刑法247条)を構成する。本件では、融資の形式を採りつつも、返済の意思や能力がない相手方に対し、十分な担保を確保せずに多額の資金を交付した行為につい…