旧株式会社日本債券信用銀行の平成10年3月期の決算処理における支援先等に対する貸出金の査定に関して,資産査定通達等によって補充される平成9年7月31日改正後の決算経理基準は,新たな基準として直ちに適用するには明確性に乏しく,従来の税法基準の考え方による処理を排除して厳格に上記改正後の決算経理基準に従うべきことも必ずしも明確であったとはいえないという過渡的な状況のもとでは,これまで「公正ナル会計慣行」として行われていた税法基準の考え方によることも許容され,これと異なり上記改正後の決算経理基準が唯一の基準であったとした原判決は,刑訴法411条1号,3号により破棄を免れない。 (補足意見がある。)
旧株式会社日本債券信用銀行の平成10年3月期の決算処理における支援先等に対する貸出金の査定に関して,これまで「公正ナル会計慣行」として行われていた税法基準の考え方によることも許容されるとして,資産査定通達等によって補充される平成9年7月31日改正後の決算経理基準を唯一の基準とした原判決が破棄された事例
証券取引法(平成10年法律第107号による改正前のもの)197条1号,証券取引法(平成12年法律第96号による改正前のもの)207条1項1号,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)32条2項,商法(平成11年法律第125号による改正前のもの)285条の4第2項
判旨
有価証券報告書の虚偽記載罪における会計処理の正当性は、当時の「公正なる会計慣行」に従ったか否かで判断される。新たな資産査定基準(資産査定通達等)が導入された過渡期においては、新基準が定性的で解釈に幅がある場合、従来の税法基準による処理も許容される余地があり、直ちに虚偽記載とは断定できない。
問題の所在(論点)
会計基準の変更期において、内容が抽象的で解釈に幅がある新基準(資産査定通達等)のみが「公正なる会計慣行」といえるか。また、これに抵触する従来の処理(税法基準)を選択することが直ちに虚偽記載罪を構成するか。
規範
旧証券取引法上の有価証券報告書虚偽記載罪における「重要な事項につき虚偽の記載」の有無は、商法上の「公正ナル会計慣行」に照らして判断される。新たな会計基準(本件では改正後の決算経理基準および資産査定通達等)が導入された場合であっても、その内容が定性的・ガイドライン的で具体的適用の明確性に欠け、実務上も解釈に相当の幅がある過渡的な状況においては、当該新基準が唯一の公正な会計慣行であったとはいえず、従前の慣行(税法基準)に従った処理も許容される。
事件番号: 平成17(あ)1716 / 裁判年月日: 平成20年7月18日 / 結論: 破棄自判
旧株式会社日本長期信用銀行の平成10年3月期に係る有価証券報告書の提出及び配当に関する決算処理について,資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準(判文参照)は,関連ノンバンク等に対する貸出金の資産査定に関しては,新たな基準として直ちに適用するには明確性に乏しく,従来のいわゆる税法基準の考え方による処理を排除…
重要事実
日本債券信用銀行(日債銀)の元経営陣である被告人らは、平成10年3月期の有価証券報告書において、多額の未処理損失があるにもかかわらず、不良債権の償却・引当を行わず過少に計上して提出したとして起訴された。当時、バブル崩壊後の金融不安を受け、大蔵省は新たな「資産査定通達」を発出し、自己査定に基づく厳格な引当を求めていた(新基準)。原審は、この新基準が唯一の「公正なる会計慣行」であるとして、これに反する被告人らの処理を虚偽と認定したが、被告人らは、従来の「税法基準(支援先については原則引当不要とする慣行)」に基づく処理は依然として許容されていたと主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、資産査定通達等の新基準について、①「実質破綻先」と「破綻懸念先」の定義が定性的であり、具体的適用の違いが不明確であること、②支援先に対する考慮を許容する表現が含まれ、実務上も解釈に幅があったこと、③当時の銀行実務においても新基準の厳格な運用が定着していたとはいえないことを指摘した。以上から、本件当時は新旧基準の過渡期にあり、新基準が唯一の基準であったとは認められず、従来の税法基準の考え方による資産査定も「公正なる会計慣行」として許容される範囲内であったと評価した。
結論
原判決を破棄し、差し戻す。新基準を唯一の基準として虚偽記載を認定した原審の判断は事実誤認および法令解釈の誤りがある。差し戻し審では、従来の税法基準に照らしてもなお不適切な処理(支援意思が形骸化していたか等)といえるかを審理すべきとした。
実務上の射程
企業会計において複数の基準が並存し得る過渡期や、規範の内容が不明確な場合、経営判断としての会計処理を刑罰をもって事後的に否定することには慎重であるべきことを示した。答案上は、虚偽記載の判断基準が「公正なる会計慣行」であることを示しつつ、その具体的内容の認定において、基準の明確性や実務の定着度を考慮すべきとする文脈で使用する。
事件番号: 平成9(あ)1232 / 裁判年月日: 平成11年2月16日 / 結論: 破棄差戻
新薬発売直後の死亡例を含む重篤な副作用症例の発生は、当該新薬が医薬品の卸販売では高い業績を挙げていたものの製薬業者としての評価が低かった会社において多額の資金を投じ実質上初めて開発し、有力製品として期待していたものである上、同社の株価の高値維持にも寄与していたものであるなどの事情の下では、証券取引法(平成五年法律第四四…
事件番号: 平成19(あ)1462 / 裁判年月日: 平成22年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上の任務に背き、他者の利益を図り本人に損害を与える目的(図利加害目的)をもって、実態のない形式的な取引を行い、会社資金を流出させた行為は、背任罪(刑法247条)を構成する。本件では、融資の形式を採りつつも、返済の意思や能力がない相手方に対し、十分な担保を確保せずに多額の資金を交付した行為につい…
事件番号: 平成13(あ)12 / 裁判年月日: 平成15年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧証券取引法166条1項4号(現行金融商品取引法166条1項4号)にいう「当該契約の履行に関し」とは、契約を締結したことで重要事実を知り得る立場に立った者が、その契約に予定された義務の履行や権利の行使、またはこれに密接に関連する交渉等の過程で重要事実を知ることを指し、当該契約自体が重要事実を前提と…
事件番号: 平成18(あ)2174 / 裁判年月日: 平成19年7月12日 / 結論: 棄却
1 出来高に関し他人に誤解を生じさせる目的は,価格操作ないし相場操縦の目的を伴わない場合でも,証券取引法(平成12年法律第96号による改正前のもの)159条1項柱書きにいう「取引が繁盛に行われていると誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的」に当たる。 2 いわゆる自己両建ての有価証券オプション取…