銀行の代表取締役頭取が,実質倒産状態にある融資先企業グループの各社に対し,客観性を持った再建・整理計画もなく,既存の貸付金の回収額をより多くして銀行の損失を極小化する目的も明確な形で存在したとはいえない状況で,赤字補てん資金等を実質無担保で追加融資したことは,その判断において著しく合理性を欠き,銀行の取締役として融資に際し求められる債権保全に係る義務に違反し,特別背任罪における取締役としての任務違背に当たる。 (補足意見がある。)
銀行の代表取締役頭取が,実質倒産状態にある融資先企業グループの各社に対し,客観性を持った再建・整理計画もないまま,赤字補てん資金等を実質無担保で追加融資したことが,特別背任罪における取締役としての任務違背に当たるとされた事例
商法(平成9年法律第107号による改正前のもの)486条1項
判旨
銀行の取締役が実質倒産状態にある企業に対し、客観的・合理的な再建・整理計画や手続上の承認なく、漫然と赤字補填のための実質無担保融資を継続する行為は、銀行の取締役に求められる高度な注意義務に照らし、特別背任罪の任務違背に当たる。
問題の所在(論点)
銀行の取締役が、実質倒産状態にある企業に対して赤字補填のための追加融資を行った場合、特別背任罪(商法旧481条1項、現会社法960条1項)における「任務に背く行為(任務違背)」に該当するか。銀行における経営判断の原則の適用範囲が問題となる。
規範
銀行の取締役には、預金者保護や金融秩序維持の観点から、一般の取締役よりも高い水準の善管注意義務・忠実義務が課される。融資の実施に際しては、債権保全のため融資先の調査・安全確認・担保徴求を行う義務がある。実質倒産状態の企業への追加融資が例外的に許容されるには、(1)客観性を持った再建・整理計画が存在し、(2)それを確実に実行する銀行側の強い経営体質があり、(3)銀行内部での明確な計画策定と正式な承認手続を経るなど、融資判断に合理性が認められなければならない。これらを欠く判断は経営判断の裁量の範囲外として任務違背を構成する。
重要事実
北海道拓殖銀行(拓銀)の元頭取ら(被告人A・B)は、取引先のDグループが過大な投資や売上減少により実質倒産状態(債務超過128億円余、多額の赤字)にあることを熟知していた。しかし、抜本的な経営改善や債権回収の方策を講じないまま、唯一の返済原資と期待された開発事業が法的制限や未買収地により実現可能性に乏しいことも認識しながら、赤字補填等のため約3年間にわたり合計約85億円(Aは10回計8.4億円、Bは88回計77億円余)を実質無担保で融資した。
あてはめ
Dグループは融資当時、自力での返済が期待できない深刻な経営難にあり、追加融資は新たな損害を発生させる危険が高い状況だった。被告人らはこの実態を認識しながら、客観的な再建・整理計画を策定せず、損失極小化の目的も不明確なまま漫然と融資を継続した。本件融資は、経営判断としての合理性を著しく欠き、銀行の取締役に求められる債権保全義務に違反している。被告人らにはかかる義務違反の認識も認められるため、任務違背に該当する。
結論
被告人らの行為は特別背任罪の任務違背に該当し、本件上告を棄却する(有罪)。
実務上の射程
銀行取締役の融資判断に経営判断の原則が適用される余地を認めつつも、その裁量は一般の取締役より限定的であることを示した。特に「実質倒産状態」の企業への融資については、客観的合理性のある計画と社内手続の厳格性が任務違背(および背任罪の図利加害目的)を否定する重要な考慮要素となる。
事件番号: 平成18(あ)2030 / 裁判年月日: 平成20年5月19日 / 結論: 棄却
銀行がした融資に係る頭取らの特別背任行為につき,当該融資の申込みをしたにとどまらず,融資の前提となるスキーム(判文参照)を頭取らに提案してこれに沿った行動を取り,同融資の担保となる物件の担保価値を大幅に水増しした不動産鑑定書を作らせるなどして,同融資の実現に積極的に加担した融資先会社の実質的経営者は,上記特別背任行為に…
事件番号: 平成14(あ)1431 / 裁判年月日: 平成17年10月7日 / 結論: 棄却
商社の代表取締役社長がその任務に違背して巨額の融資を行った場合において,融資実行の動機は同社の利益よりも自己らの利益を図ることにあり,同社に損害を加えることの認識,認容もあったなど判示の事実関係の下では,特別背任罪における図利目的はもとより加害目的をも認めることができる。