特別背任罪における図利加害目的の存在を肯認するには、図利加害の意欲ないし積極的認容までを要するものではない。
図利加害の意欲ないし積極的認容と特別背任罪における図利加害目的
商法486条1項(昭和56年法律74号による改正前のもの),刑法247条
判旨
特別背任罪における図利加害目的は、必ずしも図利加害を意欲し又は積極的に認容することまでは要せず、任務違背により本人に損害が加わることを熟知しつつ、自己の保身等のためにあえて当該行為に及んだ場合には肯定される。
問題の所在(論点)
旧商法486条1項(現行会社法960条1項)の特別背任罪における「図利加害目的」の認定において、結果の発生に対する意欲や積極的な認容が必要か。特に、自己の保身目的で任務違背行為に及んだ場合の目的の存否が問題となる。
規範
特別背任罪における「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的」(図利加害目的)を肯定するためには、必ずしも当該結果の発生を熱望・意欲し、あるいは積極的に認容することまでは要しない。任務違背行為により本人に損害が生じることを熟知しながら、あえてその行為に及ぶのであれば、その目的を認めるのが相当である。
重要事実
銀行の支店長であった被告人Bは、資金状態の改善見通しがない特定の顧客に対し、長期間にわたり連続して回収不能のおそれがある過振り(立替払い)を行った。Bは、これにより当該顧客が利益を得て銀行に損害が加わることを熟知していた。また、Bが本件行為に及んだ動機は、銀行の利益を図ることではなく、従前行っていた安易な過振りの実態が本店に発覚して、自己の面目や信用が失墜するのを防止するという自己の保身目的であった。
あてはめ
被告人Bは、資金改善の見通しがないにもかかわらず回収不能の恐れがある過振りを継続しており、顧客の利得と銀行の損害を「熟知」していたといえる。この熟知の事実に加え、Bの主観的意図が銀行の利益追求ではなく「自己の面目失墜の防止(保身)」にあったという事実に照らせば、積極的な意欲がなくとも、図利加害目的の存在を認めることができる。保身目的は「自己の利益を図る目的」にも該当し得るが、本件では銀行を害することを認識しつつこれに及んでいる以上、図利加害目的を欠くものではない。
結論
被告人Bには特別背任罪における図利加害目的が認められる。したがって、被告人を特別背任罪に問うた原判決の判断は正当である。
実務上の射程
司法試験においては、特別背任罪や背任罪(刑法247条)の目的を論じる際の最重要判例である。特に「本人の利益を図る目的」との両立(主たる目的の判断)が争点となる事案で、本判決の『熟知』というキーワードと『意欲・積極的認容までは不要』という規範は、認定のハードルを下げる方向で働く。保身目的が図利加害目的に直結することを論理づける際に活用すべきである。
事件番号: 昭和32(あ)2459 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
一 主として、第三者に不法に融資して自己の利益を図る目的がある以上、たとえ従として右融資により本人のため事故金を回収してその補填を図る目的があつたとしても、なお商法第四八六条第一項違反(特別背任)の罪の成立を免れない。 二 商法第四八六条第一項違反(特別背任)罪につき、「第三者の利益を図る目的をもつて」という訴因を、判…
事件番号: 平成14(あ)1431 / 裁判年月日: 平成17年10月7日 / 結論: 棄却
商社の代表取締役社長がその任務に違背して巨額の融資を行った場合において,融資実行の動機は同社の利益よりも自己らの利益を図ることにあり,同社に損害を加えることの認識,認容もあったなど判示の事実関係の下では,特別背任罪における図利目的はもとより加害目的をも認めることができる。
事件番号: 昭和42(あ)573 / 裁判年月日: 昭和43年2月12日 / 結論: 棄却
信用金庫の専務理事が、株式払込の仮装につき請託を受け、その費用ならびに謝礼の趣旨で、いずれの部分が費用でありいずれの部分が謝礼であるか区別できない関係で一括して金員を収受した場合、その金員の全額について経済関係罰則の整備に関する法律第二条所定の賄賂収受罪が成立し、その全額が追徴の対象になるものと解すべきである。