信用金庫の専務理事が、株式払込の仮装につき請託を受け、その費用ならびに謝礼の趣旨で、いずれの部分が費用でありいずれの部分が謝礼であるか区別できない関係で一括して金員を収受した場合、その金員の全額について経済関係罰則の整備に関する法律第二条所定の賄賂収受罪が成立し、その全額が追徴の対象になるものと解すべきである。
信用金庫の専務理事が株式払込の仮装につき請託を受けその費用と謝礼とを不可分的に一括して収受した場合の追徴の範囲
経済関係罰則の整備に関する法律2条,経済関係罰則の整備に関する法律4条
判旨
背任罪の図利加害目的について、自己の私欲のためだけでなく、特定の第三者(本件では所属会社)の利益を図る目的がある場合でも、当該目的が認められる。また、賄賂収受罪において、収受された金員に実費と謝礼が不可分に混合している場合、その全額について賄賂性が認められる。
問題の所在(論点)
1.背任罪において、特定の第三者の利益を図る目的と同時に、究極的には本人の利益を図る意図が併存する場合に、図利目的が認められるか。 2.実費の填補と謝礼の趣旨が不可分に混合して一括授受された金員について、賄賂収受罪における賄賂として全額を認定・追徴できるか。
規範
1.背任罪(刑法247条)における「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的」とは、本人の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を追求する意図を指し、その動機が最終的に本人の業績向上を期するものであっても、特定の第三者の利益を図る目的がある限り肯定される。 2.経済関係罰則の整備に関する法律2条所定の賄賂収受罪において、授受された金員が経費の支払と謝礼の趣旨で一括して授受され、その区分が不能であるときは、その全額が賄賂にあたる。
重要事実
被告人Aは、信用金庫の役員として勤務していたが、B株式会社の利益を図る目的で不適切な貸付や「預合(見せ金による増資工作)」を行った。Aは、これらの行為は金庫の将来的な業績向上のための布石であったと主張し、図利目的を否定した。また、Aは被告人C、D、Eらから預合に関する諸費用及び謝礼として合計40万円を受け取ったが、その内訳は経費と謝礼が混然一体となったものであった。第一審および原審は、背任罪および賄賂収受罪(経済関係罰則法違反)の成立を認め、40万円全額の追徴を命じた。
事件番号: 昭和45(あ)2415 / 裁判年月日: 昭和50年4月3日 / 結論: 破棄自判
刑法二四七条の背任の罪と預金等に係る不当契約の取締に関する法律五条一項一号の罪との間にいわゆる法条競合の関係はない。
あてはめ
1.被告人AはB株式会社の利益を図る目的で背任行為に及んでおり、仮にそれが「金庫の業績向上を期そうとした」という主観的な背景を持っていたとしても、それは量刑上の情状にすぎない。特定の第三者(B社)の利益を優先して本人の任務に背いた事実に変わりはなく、図利目的は認められる。 2.収受された現金40万円は、預合に関する諸費用の支払(実費)と謝礼の趣旨が、いずれの部分が費用でいずれが謝礼か区別できない関係で一括して授受されている。このように性質上不可分である以上、その全額が職務に関連した不法な利益(賄賂)としての性質を有すると解するのが相当である。
結論
1.特定の第三者の利益を図る目的がある以上、図利目的は認められ背任罪が成立する。 2.経費と謝礼の区別が困難な一括授受金は、その全額が賄賂収受罪を構成し、全額の追徴が認められる。
実務上の射程
背任罪の図利加害目的について「図利・加害目的の排他的互換性」を緩やかに解釈する際の実務上の根拠となる。また、賄賂罪において実費弁償名目での弁解がなされた場合、謝礼部分と不可分であれば全額が賄賂となるという処理基準(混合贈賄)を示すものとして、収賄罪の事案でも準用可能である。
事件番号: 昭和60(あ)714 / 裁判年月日: 昭和63年11月21日 / 結論: 棄却
特別背任罪における図利加害目的の存在を肯認するには、図利加害の意欲ないし積極的認容までを要するものではない。
事件番号: 昭和39(あ)1336 / 裁判年月日: 昭和40年9月21日 / 結論: 棄却
銀行支店長代理が架空の定期預金証書を作成し交付することは、経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律第二条にいわゆる「職務に関する行為」に当る。
事件番号: 昭和31(あ)2109 / 裁判年月日: 昭和35年6月21日 / 結論: 棄却
一 商法第四九一条後段の応預合罪は、株金払込取扱期間の役職員が同法第四八六条第一項に掲げる者と通謀して株金の払込を仮装する行為をいう。 二 銀行の支店長甲が株式会社の設立発起人乙と通謀して株金払込を仮装するため、その方法として同銀行支店から預金者丙に融資しその金員を設立登記完了まで乙に貸与することを丙に承諾させた上、丙…
事件番号: 昭和31(あ)154 / 裁判年月日: 昭和33年9月12日 / 結論: 棄却
経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律第二条にいう「其ノ職務」とは、同条の定める会社、組合またはこれらに準ずるものの職務であれば、同条のいう事業または業務にかかわりなく、すべてを含むと解すべきではないが、本来の独占的または統制的性質をもつ業務に局限すべきでなく、本来の事業または業務を行うために必要な関係にある事務をも含むものと…