一 主として、第三者に不法に融資して自己の利益を図る目的がある以上、たとえ従として右融資により本人のため事故金を回収してその補填を図る目的があつたとしても、なお商法第四八六条第一項違反(特別背任)の罪の成立を免れない。 二 商法第四八六条第一項違反(特別背任)罪につき、「第三者の利益を図る目的をもつて」という訴因を、判決で「自己の利益を図る目的をもつて」と変更して認定するには、訴因変更の手続を必要としない。
一 商法違反(特別背任)罪における背任目的の主従と同罪の成否。 二 商法違反(特別背任)罪における背任目的の変更と訴因変更手続の要否。
商法486条1項,刑訴法312条
判旨
背任罪の図利加害目的において、主として自己の利益を図る目的がある以上、従として本人のため利益を図る目的があっても同罪は成立する。また、訴因と認定事実が密接な関係にあり、被告人の防御権を実質的に侵害しない場合には、訴因変更手続を経ずに異なる目的を認定しても違法ではない。
問題の所在(論点)
1. 自己の利益を図る目的と本人の利益を図る目的が併存する場合に、背任罪の図利目的が認められるか。2. 訴因に記載された図利目的の帰属主体(第三者か自己か)と異なる事実を認定する際、訴因変更手続(刑訴法312条1項)が必要か。
規範
1. 背任罪(商法上の特別背任罪を含む)の主観的要件である図利加害目的につき、主として不法に自己または第三者の利益を図る目的がある以上、従として本人の利益を図る目的が併存していても、なお図利目的を肯定すべきである。2. 裁判所が訴因と異なる事実を認定する場合、それが訴因と具体的・密接な関係にあり、かつ被告人の防御に実質的な不利益を与えないときは、訴因変更手続を要しない。
重要事実
被告人らは、B株式会社の役員として融資行為を行ったが、これが商法の特別背任罪にあたるとして起訴された。起訴状(訴因)では「第三者Aの利益を図る目的」と記載されていたが、第一審判決は「自己(被告人ら)の利益を図る目的」であったと認定した。被告人側は、本件融資は専ら会社(本人)の利益を図る目的であったと主張し、かつ訴因変更手続を経ない目的の差し替えは防御権侵害であるとして上告した。
あてはめ
1. 実体法上、被告人らには主として不法な融資により自己の利益を図る目的が認められる。たとえ従として、融資により事故金を回収し本人の欠損を補填する目的があったとしても、主たる目的が自己の利益にある以上、図利目的は阻却されない。2. 訴訟法上、認定された「自己の利益」と訴因の「第三者の利益」は、本件の具体的状況下では主従・表裏の密接な関係にあり、全然無関係な行為ではない。また、訴訟経過に照らしても、被告人の防御を徒労に終わらせるような不意打ちとはいえず、防御権の実質的侵害は認められない。
結論
1. 自己の利益を図る主たる目的がある以上、背任罪は成立する。2. 本件では訴因変更手続を経ずに訴因と異なる目的を認定しても、審判対象の同一性を逸脱せず、防御権侵害もないため適法である。
実務上の射程
実体法面では図利目的の併存事例における判断基準(主従関係)を示し、訴訟法面では訴因変更の要否につき「防御権侵害の有無」という実質的基準を重視する。特に背任罪の目的の帰属主体が食い違う事案での限界事例として重要である。
事件番号: 昭和27(あ)5855 / 裁判年月日: 昭和29年3月30日 / 結論: 棄却
論旨援用の判例(大審院大正三年十〇月一六日刑録二〇輯一八六七頁)は、「本人に損害を加えたる場合においても」「若しその目的にして本人の利益を図るに在りとすれば」背任罪は成立しないというのである。しかるに原判決は、被告人の「所論保障はその主要な目的が直接本人たるA銀行のためでなくして(A銀行の利益をも無視したものではないと…