論旨援用の判例(大審院大正三年十〇月一六日刑録二〇輯一八六七頁)は、「本人に損害を加えたる場合においても」「若しその目的にして本人の利益を図るに在りとすれば」背任罪は成立しないというのである。しかるに原判決は、被告人の「所論保障はその主要な目的が直接本人たるA銀行のためでなくして(A銀行の利益をも無視したものではないとしても)同被告人自己の責任である不当貸付の免責を図るがため」であつたという事実を認めて、これを有罪としたのであるから、前記判例に反するところは少しもない。
背任罪成立の一事例 ―大審院令と相反する判断をしたことにあたらない場合―
刑法247条,刑訴法405条3号,刑訴法408条
判旨
背任罪の図利加害目的について、本人の利益を図る目的があったとしても、主要な目的が自己の不当貸付の免責にある場合には、背任罪が成立する。
問題の所在(論点)
背任罪の「図利加害目的」に関し、被告人が自己の利益を図る目的だけでなく、本人の利益を図る目的をも併せ持っていた場合に、同目的が認められるか。
規範
背任罪(刑法247条)の成立には、図利加害目的が必要であるが、行為者の主観において本人の利益を図る目的が併存している場合であっても、その主要な目的が自己の利益を図ることにあり、本人の利益を図る目的が副次的なものにとどまるのであれば、図利加害目的が認められる。
重要事実
被告人はA銀行の職員であったが、自己が過去に行った不当な貸付について、その責任(不当貸付の免責)を免れることを直接の主要な目的として、特定の保証行為を行った。なお、当該行為において、被告人はA銀行の利益を全く無視していたわけではなかった。
事件番号: 昭和32(あ)2459 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
一 主として、第三者に不法に融資して自己の利益を図る目的がある以上、たとえ従として右融資により本人のため事故金を回収してその補填を図る目的があつたとしても、なお商法第四八六条第一項違反(特別背任)の罪の成立を免れない。 二 商法第四八六条第一項違反(特別背任)罪につき、「第三者の利益を図る目的をもつて」という訴因を、判…
あてはめ
被告人の行った保証行為は、A銀行の利益を無視したものではないとしても、その主要な目的は自己の責任である不当貸付の免責を図る点に存した。このように、本人の利益を図る意図が否定できない場合であっても、自己の利益を図る目的が主たる動機となっている以上、図利目的が認められると解される。
結論
本人の利益を併せ図る意図があったとしても、主要な目的が自己の利益にある以上、背任罪の成立を妨げない。
実務上の射程
目的の併存事案における「主従関係」による判断枠組みを示したものとして重要である。実務上は、行為によって得られる利益の帰属先や、行為に至る動機・経緯を検討し、どちらの目的が優越的であるかを認定する際の根拠となる。
事件番号: 昭和27(あ)6421 / 裁判年月日: 昭和28年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形を振り出した会社が、その手形の所持人に対して支払義務を負う場合、当該手形に関する行為は詐欺罪等の財産犯における「財産上の利益」の移転や損害の発生を基礎付け得る。 第1 事案の概要:被告人が会社の名義で手形を振り出した事案において、弁護人は「手形の振出会社は所持人に対して支払義務を負わない」と主…