信用組合の専務理事である被告人が、自ら所管する貸付事務について、貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、無担保あるいは不十分な担保で貸付を実行する手続をとつた本件行為は、それが決裁権を有する理事長の決定・指示によるものであり、被告人がその貸付について理事長に対し反対意見を具申したという事情があつたとしても、背任罪にいわゆる任務違背の行為に当たる。
背任罪にいわゆる任務違背の行為に当たるとされた事例
刑法247条
判旨
信用組合の専務理事が、貸付金の回収が困難であることを認識しながら無担保等で貸付を実行した場合、理事長の指示や反対意見の具申があったとしても背任罪の任務違背が認められる。
問題の所在(論点)
金融機関の役員が、回収困難な貸付を無担保で行う際、上命に従ったに過ぎない場合や、反対意見を述べていた場合に、背任罪の「任務に背く行為」にあたらないといえるか。
規範
背任罪(刑法247条)における「任務に背く行為(任務違背行為)」とは、事務の委託を受けた者が、信義則に照らしその者に期待される誠実な義務に反することをいう。金融機関の役職員が貸付を行う際、回収の見込みが極めて低いことを認識しながら、適切な保全措置を講じずに実行する行為は、たとえ上命があったとしても、委託の本旨に反する任務違背行為にあたる。
重要事実
信用組合の専務理事であった被告人は、自ら所管する貸付事務において、貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知していた。それにもかかわらず、無担保あるいは十分な担保を徴することなく貸付を実行する手続きをとった。なお、当該貸付は決裁権を有する組合理事長の決定・指示に基づくものであり、被告人は理事長に対し、反対または消極的な意見を具申していた。
あてはめ
被告人は、貸付金の回収が困難であることを熟知していた。金融機関の専務理事として、貸付の安全性を確保し組合の財産を守る義務がある。理事長の指示があったとしても、専務理事が自ら回収不能な無担保貸付の手続きを積極的に進めることは、組合に対する誠実義務に違反する行為である。また、単に消極的意見を具申した事実は、義務違反の本質を変えるものではなく、実行行為を差し控えるべき職責を免責する理由にはならない。
結論
被告人に任務違背が認められ、背任罪が成立する。
実務上の射程
金融機関の不正融資事案における任務違背の判断基準を示している。上司の指示や内部での反対意見の存在は、直ちに違法性阻却や任務違背の否定にはつながらない。刑事責任の個別性を重視し、職責に応じた独自の判断義務を肯定する文脈で活用できる。
事件番号: 平成13(あ)347 / 裁判年月日: 平成16年9月10日 / 結論: 破棄差戻
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