刑法第二四七条にいわゆる「財産上ノ損害ヲ加ヘルトキ」とは、財産上の実害を発生せた場合だけでなく、実害発生の危険を生じさせた場合をも包含する。
刑法第二四七条にいわゆる「財産上ノ損害ヲ加ヘタルトキ」の意義
刑法247条
判旨
業務上横領罪における領得行為の認定に関し、一般的権限を越えて自己の計算で保管金を不法に処分する行為は横領にあたる。また、背任罪における「財産上の損害」には、実害のみならず、実害発生の危険を生じさせた場合も含まれる。
問題の所在(論点)
1. 事務局長らが保管中の現金を独断で他人に貸し付ける行為は、業務上横領罪を構成するか。 2. 背任罪における「財産上の損害」の意義、および無効な質権設定行為がこれに該当するか。
規範
1. 業務上横領罪(刑法253条)における不法領得の意思の現れとしての処分行為は、占有者が一般的権限を越え、自己の計算において目的物を不法に処分することによって認められる。 2. 背任罪(刑法247条)における「財産上の損害」とは、既存の財産が減少するなどの実害が発生した場合に限られず、客観的に見て財産上の実害が発生する危険を生じさせた場合をも包含する。
重要事実
熊本県漁業信用基金協会の事務局長兼専務理事として業務全般を管掌していた被告人が、(1)協会所有の現金を自己の判断で知人らに対し、事業資金として勝手に貸与した(横領の点)。また、(2)協会の定期預金債権証書につき、業務範囲外であるにもかかわらず、独断で質権を設定し質権者に交付した(背任の点)。被告人側は、後者の行為が法律上無効である以上、協会に損害はないと主張した。
あてはめ
1. 横領について:被告人は業務全般を管掌し現金を保管する立場にありながら、自己の一般的権限を越え、独断で第三者の事業資金として現金を処分している。これは自己の計算において不法に処分したといえ、不法領得の意思が認められる。 2. 背任について:定期預金証書への質権設定が協会の業務範囲外で法律上無効であったとしても、証書が交付された以上、協会が定期預金債権を回収することが困難になる客観的な危険が生じている。したがって、財産上の実害が生じる危険が認められ、「財産上の損害」があるといえる。
結論
1. 現金の独断貸与について、業務上横領罪の成立を認めた原判断は正当である。 2. 背任罪における財産上の損害は、実害発生の危険を含む。無効な質権設定であっても回収不能の危険が生じた以上、損害が認められ、背任罪が成立する。
実務上の射程
背任罪における「損害」の概念を広く解し「リスクの発生」で足りるとする重要判例である。答案上は、背任罪の損害要件を論じる際に「実害のみならず、実害発生の危険で足りる」とする規範の根拠として引用する。また、横領と背任の区別において、権限越脱による不法処分が横領に該当し得る点も実務上重要である。
事件番号: 昭和26(あ)4331 / 裁判年月日: 昭和28年3月12日 / 結論: 棄却
貸付の権限のない公団の出納係が、業務上保管にかかる小切手金員等をほしいままに他人に流用したときは、右流用が貸付の形式をとつても不法領得の意思を実現したものであるから、業務上横領罪を構成する。