一 農業協同組合の組合長である被告人が、任務に背いて組合名義をもつて約束手形を振出したときは、背任罪が成立し、その手形を組合の当座預金から払出して支払つた行為もまた右背任罪の一部であつて、別に横領罪を構成するものではない。 二 原判決の認定する被告人の犯行が、合計二四回総額一、三四一万円に達する業務上横領並びに合計六回総額二、二三〇万円に達する背任の所為である場合において、原判決が法令の適用を誤り、背任罪とすべきものを業務上横領として処断したのが、そのうち合計四回総額一六五万円にすぎないときは、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとはいえない。
一 横領罪ではなく背任罪が成立するとされた事例。 二 刑訴法第四一一条第一号にあたらないとされた事例。
刑法247条,刑法253条,刑訴法411条1号
判旨
任務に背き組合名義の約束手形を振り出す行為が背任罪を構成する場合、その後に行われた手形決済のための預金払い出し行為は、先行する背任行為の一部をなすものであり、別罪としての横領罪は成立しない。
問題の所在(論点)
背任行為によって生じさせた手形債務を履行するために、法人の財産を費消して決済する行為が、背任罪とは別に業務上横領罪を構成するか、あるいは背任罪の一環として評価されるべきか。
規範
任務に違背して法人等の名義で約束手形を振り出す行為自体が背任罪を構成する場合、当該手形の支払(決済)のために法人等の預金を払い出す行為は、先行する背任行為に伴う一連の過程と解される。したがって、その支払行為を捉えて別途横領罪として処断することはできず、全体として背任罪の包括的一罪(または背任行為の一部)として扱うべきである。
重要事実
農業協同組合の組合長である被告人が、任務に背いて組合名義の約束手形を擅に振り出した。その後、被告人は当該手形の支払に充てるため、組合の当座預金から金員を払い出して決済を行った。原判決はこのうち、手形支払のための預金払出行為について業務上横領罪の成立を認めていた。
あてはめ
被告人が組合名義で約束手形を振り出したこと自体が、組合に債務を負担させる任務違背行為であり、背任罪の実行行為に該当する。その上で、当該手形の支払のために組合預金を払い出す行為は、先行した背任行為によって発生した事態を完了させる行為にすぎない。すなわち、預金払出行為は背任罪の一部を構成するものであり、これに対して別途、自己の占有する他人の物を領得したとする横領罪の成立を認めることは二重の評価となるため、許されない。
結論
被告人の行為は背任罪のみを構成し、別途業務上横領罪は成立しない。本件では原判決に法令の適用違背があるものの、全体の犯罪規模に照らし破棄を要するほどではないとして上告を棄却した。
実務上の射程
背任行為の結果として生じた債務の履行行為について、形式的に横領罪の構成要件を充足するように見えても、実質的には背任罪に吸収されることを示した判例である。答案上は、先行する背任行為と後続の財産処分行為の連続性を検討し、罪数関係を論じる際に活用すべき射程を有している。
事件番号: 昭和33(あ)1199 / 裁判年月日: 昭和37年2月13日 / 結論: 棄却
刑法第二四七条にいわゆる「財産上ノ損害ヲ加ヘルトキ」とは、財産上の実害を発生せた場合だけでなく、実害発生の危険を生じさせた場合をも包含する。