A組合の組合長が、組合の定款に違反し組合の総会および理事会の議決を経ずに、独断で組合名義をもつて貨物自動車営業を経営し、これに組合資金を支出した場合においても、右支出が専ら組合自身のためになされたものと認められるときは、不法領得の意思を欠くものとして業務上横領罪を構成しない。
組合長が組合の定款に違反し組合名義で経営して事業に組合資金を支出した場合と業務上横領罪の成否
刑法253条
判旨
業務上横領罪の成立には不法領得の意思が必要であり、他人の財物を処分したとしても、それが専ら本人の利益を図る目的でなされた場合には、不法領得の意思を欠き同罪は成立しない。
問題の所在(論点)
組合長が定款・議決等の内部手続に違反して支出を行った場合、その支出が本人の利益を図る目的であっても、客観的な手続違反のみをもって直ちに業務上横領罪の「不法領得の意思」が認められるか。
規範
業務上横領罪(刑法253条)の成立には、不法領得の意思、すなわち「自己の所有物でないものを、その経済的用途に従い、自己の所有物と同様に処分する意思」が必要である。したがって、他人の財物を管理する者がその財物を支出・処分した場合であっても、その行為が「専ら本人(所有者)自身のため」になされたと認められる場合には、不法領得の意思を欠くため、同罪を構成しない。
重要事実
組合の組合長である被告人が、組合名義で譲り受けた貨物自動車営業に関し、その運営資金として組合資金を支出した。当該営業は、組合の総会や理事会の議決を経ず、定款に違反して被告人が独断で承継したものであり、組合の内部関係においてはその事業に属しないものであった。しかし、被告人自身が利益を得る目的はなく、支出自体は組合名義で行われた営業のために行われていた。
あてはめ
本件において、被告人が独断で営業を継承し、組合資金を支出したことは定款違反等の手続的瑕疵がある。しかし、被告人自身の利益を図る目的は認められず、むしろ組合名義の営業のために支出されており、組合のためになされた側面を否定できない。当該営業が内部関係で組合の事業に属しないとしても、支出が「専ら組合(本人)自身のため」になされたのであれば、自己の所有物として処分する意思(不法領得の意思)があるとはいえない。原審は利得目的の有無が罪の成立に影響しないとして判断を怠っており、事実誤認または法の適用に誤りがある。
結論
被告人の支出行為が専ら本人たる組合自身のためになされたものである場合には、不法領得の意思を欠くため、業務上横領罪は成立しない。
実務上の射程
越権行為や手続違反がある支出であっても、それが「本人のため」という目的(本人利益目的)で行われた場合には、不法領得の意思が否定されることを示した重要判例である。答案上は、背任罪(本人の利益を図る目的の有無)との区別や、横領罪における「不法領得の意思」の内実を論じる際に、この「本人利益目的」の有無を検討するメルクマールとして活用する。
事件番号: 昭和26(あ)4331 / 裁判年月日: 昭和28年3月12日 / 結論: 棄却
貸付の権限のない公団の出納係が、業務上保管にかかる小切手金員等をほしいままに他人に流用したときは、右流用が貸付の形式をとつても不法領得の意思を実現したものであるから、業務上横領罪を構成する。