所論引用の各判例は、いずれもその挙示の証拠により、犯罪事実を認定するに当り、情状の斟酌、法令の解釈その他に関し必要な説示、判断を示したに止まり、判文中期待可能性の文字を使用したとしても、いまだ期待可能性の理論を肯定又は否定する判断を示したものとは認められない。されば所論判例違反の主張はその前提を欠くものであつて採るを得ない。 所論引用の判例 昭和八年(れ)第四二八号同年一一月二一日大審院判決(判例集一二巻二〇七頁) 昭和一一年(れ)第一二〇八号同年一一月二一日大審院判決(判例集一五巻一五〇一頁) 昭和一〇年(れ)第一七八四号同一一年三月五日大審院判決 昭和二五年(う)自第二一四二号至第二一四四号同二六年四月七日名古屋高裁判決(高裁判例集四巻四号三六四頁)
判例違反の主張がその前提を欠く事例。−期待可能性理論の適用は判例違反である旨の主張−
刑法35条,刑法37条,刑訴法405条3号
判旨
横領罪における不法領得の意思は、自己又は第三者の利得を図る目的が必要であり、本人のためにする行為であればその成立は否定される。
問題の所在(論点)
刑法252条(または253条)の横領罪における「不法領得の意思」の成否が問題となる。特に、行為が「本人のためにした行為」と認められる場合に、不法領得の意思が否定されるかどうかが争点となった。
規範
横領罪が成立するためには、委託の趣旨に反して、自己又は第三者の利得を図る目的で、権限なく他人(本人)の物を自己の所有物として処分する「不法領得の意思」が必要である。行為が客観的に本人の利益を図る目的でなされたと認められる場合には、不法領得の意思が欠け、同罪は成立しない。
重要事実
被告人が、公団の職員として、その業務遂行に関連して何らかの行為を行ったところ、それが横領罪に当たるとして起訴された事案である。原審は、被告人の当該所為は公団(本人)のためにした行為であると認定し、横領罪の成立を否定した。これに対し、検察側が不法領得の意思の解釈や期待可能性の有無等を理由に上告した。
あてはめ
原判決の認定によれば、被告人の所為は、自己または第三者の私利を図るものではなく、本人のために行われたものである。横領罪における領得とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いてその物を自己の所有物として処分することであるが、本人の利益を図る主観的意図でなされた行為は、不法領得の意思を基礎付ける「利得の目的」を欠いている。したがって、第三者に領得させる意思がある場合とは異なり、本人のための行為である以上、横領罪の構成要件を充足しないと解される。
結論
被告人の行為は公団(本人)のためにした行為であるから、不法領得の意思が認められず、横領罪は成立しない。
実務上の射程
不法領得の意思の定義において、利用処分意思だけでなく「利得意思(経済的用法に従い処分する意思)」が必要であることを示唆する。答案上は、背任罪(本人への加害目的)との区別や、公金流用事案等において、行為が『組織の目的』の範囲内といえるか(本人のための行為といえるか)を検討する際のメルクマールとなる。
事件番号: 昭和28(あ)4183 / 裁判年月日: 昭和30年8月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上横領罪において、不法領得の意思が認められるためには、必ずしも自己の利得を図る目的は必要ではなく、委託の趣旨に反して権限なく所有者でなければできない処分をする意思があれば足りる。 第1 事案の概要:本件において、被告人は業務上占有していた物(詳細な物件の内容は判決文からは不明)について、本来の…