判旨
業務上横領罪における「業務」は法規上の権限に基づくものに限られず、職務と関連して慣例上行われる事務も含まれ、また不法原因給付であっても横領罪が成立し得る。
問題の所在(論点)
1. 法規上の権限に基づかない「慣例上の事務」が、業務上横領罪の「業務」に当たるか。2. 違法な手段で捻出された金員(公金)について、横領罪の客体(他人の物)性が認められるか。3. 不法原因給付の法理が、横領罪の成立を妨げるか。
規範
1. 刑法253条にいう「業務」とは、法規上の権限に基づく職務行為そのものには限られない。ある職務を有する者が、その職務に関連して慣例上または関係者の協議上、ある事務を継続して執行している場合には、これを含む。2. 寄託物が不法原因給付に該当し、寄託者が民法上の返還請求権を有しない場合であっても、受託者がこれを不法領得の意思をもって処分すれば、横領罪が成立する。3. 横領罪の成立には、後日に補填する意思や資力があったとしても影響しない。
重要事実
被告人は、県土木出張所の庶務課長兼県出納員という職にあった。法規上の権限ではないが、慣例として、出張所の正当な業務運営のための維持費(いわゆる機密費)などの現金保管業務を行っていた。被告人は、違法な方法により捻出され業務上保管中であった公金25万円を、自己の用途に充てるためほしいままに着服した。弁護側は、当該金員が法規上の職務による保管ではないことや、不法な方法で捻出されたものであること、補填の意思があったことなどを理由に無罪を主張した。
あてはめ
1. 被告人は庶務課長等の職にあり、これに関連して慣例として現金保管事務を行っていた。これは社会的地位に基づき反復継続して行われる事務といえ、刑法253条の「業務」に当たる。2. 当該金員は、県出張所の正当な業務運営のために捻出されたものであり、関係者の私物とする意図はない。したがって、占有が被告人に移っても所有権は依然として県に属し、「他人の物」である。3. 仮に捻出過程が違法で不法原因給付の側面があったとしても、受託者が委託の趣旨に反してほしいままに処分する行為は、依然として処罰の対象となる。4. ほしいままに着服した以上、後日の補填意思の有無は不法領得の意思を否定するものではない。
結論
被告人の所為は業務上横領罪を構成する。被告人が職務に関連して慣例上保管していた金員は「業務」上の占有に当たり、これを自己の用途に費消した以上、同罪が成立する。
実務上の射程
業務上横領罪における「業務」の定義を、法規上の権限を超えて実態的に捉える際の根拠となる。また、民事上の不法原因給付(民法708条)と刑事上の横領罪の関係について、刑法的保護の必要性から不法原因給付物の横領を肯定するリーディングケースとして活用できる。
事件番号: 昭和31(あ)1761 / 裁判年月日: 昭和34年2月13日 / 結論: その他
一 控訴審が事実の取調をなし第一審の無罪判決を破棄して有罪を認定するにあたつては、第一審において取り調べた証拠は、控訴審で再び証拠調をし直すことを必要とせず、そのまま証拠能力を認めて判決の基礎とすることができる。 二 社団法人たる森林組合を代表し組合業務一切を掌理する組合長および組合長を補佐し組合業務を執行する組合常務…