一 控訴審が事実の取調をなし第一審の無罪判決を破棄して有罪を認定するにあたつては、第一審において取り調べた証拠は、控訴審で再び証拠調をし直すことを必要とせず、そのまま証拠能力を認めて判決の基礎とすることができる。 二 社団法人たる森林組合を代表し組合業務一切を掌理する組合長および組合長を補佐し組合業務を執行する組合常務理事が、農林漁業資金融通法(昭和二六年法律第一〇五号)の規定により政府から組合に対し組合員に造林資金として転貸交付する目的をもつて貸付され、右転貸資金以外他のいかなる用途にも流用支出することのできない金員を組合のため業務上保管中共謀の上その保管方法と使途の規正に反し、もつぱら第三者たる地方公共団体の利益を図り、その諸経費支払資金に充てしめるため、ほしいままにこれに貸付支出したときは、対政府関係における融資条件違反の罰則の有無にかかわらず、また、たとえその金員が組合の所有に属し、右第三者に対する貸付が組合名義をもつて処理されているとしても、横領罪の成立に必要な不法領得の意思ありと認めて妨げなく、業務上横領罪が成立する。
一 控訴審が破棄自判する場合と第一審において取り調べた証拠 二 農林漁業資金融通法による政府貸付金について業務上横領罪の成立する場合
刑訴法394条,刑訴法400条但書,農林漁業資金融通法(昭和26年法律105号)2条2号,農林漁業資金融通法(昭和26年法律105号)3条4項2号,農林漁業資金融通法(昭和26年法律105号)4条1項,刑法253条
判旨
法人の役員が、保管方法と使途が厳格に限定された法人所有の金員を、正当な権限なく使途外の目的に支出する行為は、法人の所有権を侵奪するものとして業務上横領罪を構成する。
問題の所在(論点)
政府から目的を限定して貸し付けられ、法人の所有に属した金員を、役員が法人の目的外の用途に流用した場合に、業務上横領罪が成立するか。不法領得の意思の有無が問題となる。
規範
業務上横領罪(刑法253条)の成立に必要な「不法領得の意思」とは、他人の物の占有者が、委託の任務に背いて、その所有者でなければできないような処分をする意思をいう。法人の所有する金員であっても、それが特定の目的(転貸資金等)のために保管方法・使途が厳格に限定されている場合、これを正当な権限なく、かつ法人の利益を図る目的以外で、自己または第三者の利益のために支出する行為は、法人の所有権を侵奪する行為として、不法領得の意思が認められる。
重要事実
森林組合(法人)の組合長Aおよび常務理事Bは、農林漁業資金融通法に基づき、政府から組合員への転貸用として「造林資金」175万円の貸付を受けた。本金員は、法的には一旦組合の所有に帰するが、同法により使途が厳格に造林事業に限定され、他の用途への流用が一切禁じられていた。しかし、被告人らは、諸経費に窮していた町への貸付けや、被告人ら個人の事業である球果採取事業の借入金返済のため、計約83万円を支出した。これらの支出は組合役員会の決議に反し、法人の目的を逸脱するものであった。
あてはめ
本件貸付金は、一旦は組合の所有に帰すが、保管方法と使途が法令により厳格に限定され、転貸以外の用途への流用が絶対的に禁止されていた。被告人らは組合の業務執行機関としてこれを保管する立場にありながら、町や個人の利益を図るため、組合の決議にも反して独断で支出した。この行為は、単なる手続違反的な形式的違法にとどまらず、委託の任務に背き、法人の所有権を侵奪する処分といえる。したがって、被告人らには不法領得の意思が認められる。
結論
被告人らの行為には業務上横領罪が成立する。したがって、一審の無罪判決を破棄して有罪とした原判決の判断は正当である。
実務上の射程
法人の所有物であっても、使途が厳密に特定された金員の流用については、背任罪ではなく横領罪の成立を認めるのが判例の傾向である。答案では、対象物が「使途の特定された金銭」であることを指摘した上で、その処分が「所有者でなければできない処分」にあたるかを検討する。
事件番号: 昭和32(あ)2438 / 裁判年月日: 昭和33年1月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上横領罪における「業務」は法規上の権限に基づくものに限られず、職務と関連して慣例上行われる事務も含まれ、また不法原因給付であっても横領罪が成立し得る。 第1 事案の概要:被告人は、県土木出張所の庶務課長兼県出納員という職にあった。法規上の権限ではないが、慣例として、出張所の正当な業務運営のため…