復員事務官でA上陸地連絡所庶務課勤務を命ぜられた者が他課の所管ではあるが復員者に對する旅費の交付及びこれに充てる國庫の前渡資金保管の事務についても平素から事質上擔當主任事務官の輔佐としてこれに從事し關係上司においてもこれを認めていた以上特にその命令に出でたものでなくてもその事務の處理は刑法第二五三條のいわゆる業務に該當するものと解すべきである。
刑法第二五三條の業務
刑法253條
判旨
業務上横領罪における「業務」とは、公私の権限に基づくものである必要はなく、上司の明示的な命令がなくても、事実上その事務を継続的に担当し、上司がこれを容認していた場合には、同罪の業務に該当する。
問題の所在(論点)
業務上横領罪(253条)における「業務」の成否につき、明示的な職務命令や法令・契約上の権限がないまま事実上従事していた事務が含まれるか。
規範
刑法253条の「業務」とは、社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる事務をいう。本罪における業務性は、必ずしも法令、慣例、契約等に基づく公的な権限や明示的な命令を要するものではなく、事実上の事務の処理であっても、それが反復継続され、かつ関係上司等によって黙認・是認されている場合には、同条の業務に含まれると解すべきである。
重要事実
復員事務官として上陸地連絡所庶務課に勤務していた被告人は、本来の職務権限は庶務であったが、他課の所管である復員者への旅費交付および国庫前渡資金の保管事務について、過去の経験から事実上、担当主任事務官の補佐として平素から従事していた。上司も被告人がこれらの事務に従事している事実を認めていたが、被告人は明示的な職務命令や法令上の根拠がないことを理由に、業務上横領罪の成立を否定し単純横領罪(252条)の適用を主張して上告した。
あてはめ
被告人は本来の庶務課員としての職務権限を超え、他課の旅費交付・資金保管事務に従事していた。しかし、被告人はこれらを「平素から事実上担当主任事務官の輔佐として」継続的に処理しており、反復継続性が認められる。また、関係上司においても被告人が当該事務を処理していることを「認めていた」以上、公的な命令が介在しなくとも、社会生活上の地位に基づく事務としての実態がある。したがって、被告人が占有する資金は「業務上」自己の占有する物といえる。
結論
被告人の行為は、刑法253条の業務上横領罪に該当する。上告棄却。
実務上の射程
業務の発生根拠が「事実上の事務」であっても足りることを示した重要判例。答案では、被告人の地位、事務の内容、反復継続性の有無、組織による容認(黙認)の有無を事実から拾い、本判例を根拠に業務性を肯定する流れで用いる。
事件番号: 昭和24(れ)753 / 裁判年月日: 昭和26年3月15日 / 結論: 棄却
原判決は、被告人が「農事組合長代理として配給事務その他組合の業務一切を取扱つていたものである」ことは認めている。それ故かかる被告人の横領は業務横領として処罰するのは当然である。所論のように農事実行組合には法令上組合長代理が認められていないことは、業務横領を認める妨げとなるものではない。