原判決は、被告人が「農事組合長代理として配給事務その他組合の業務一切を取扱つていたものである」ことは認めている。それ故かかる被告人の横領は業務横領として処罰するのは当然である。所論のように農事実行組合には法令上組合長代理が認められていないことは、業務横領を認める妨げとなるものではない。
法令上存しない組合長代理の横領行為と業務横領
刑法253条
判旨
業務上横領罪において、法的に規定されていない役職であっても実質的に業務を総括していれば「業務」性が認められ、また目的物の所有者が誰であるかを厳密に特定せずとも「他人の物」であることが明らかであれば罪は成立する。
問題の所在(論点)
1. 法令上の根拠がない役職に基づき事務を行う場合に、業務上横領罪の「業務」性が認められるか。 2. 横領罪の成立において、目的物の所有者が誰であるかを特定して明示する必要があるか。
規範
1. 業務上横領罪(刑法253条)における「業務」とは、社会生活上の地位に基づき継続して行う事務を指し、法令上の根拠の有無を問わず、実質的に事務を取り扱っている事実があれば足りる。 2. 横領罪の目的物が自己の占有する「他人の物」であることを判示することは必要であるが、その所有者が誰であるかを具体的に明示することまでは要しない。
重要事実
被告人は、農事組合長代理として、配給事務や組合の業務一切を取り扱っていた。被告人は、農業会から報奨物資として受領した綿布57ヤードのうち、実際に配給した分(19ヤード)および組合役員に分配した分(13ヤード)を除いた残りの25ヤードを横領した。弁護人は、農事実行組合には法令上「組合長代理」という役職が認められていないこと、および横領したとされる物の所有関係が不明確であることを理由に上告した。
あてはめ
1. 被告人は、農事組合長代理という名称を用いて実質的に組合の配給事務等の業務一切を統括していた。したがって、法令上の規定の有無にかかわらず、その実態において「業務」を行っていたといえる。 2. 本件の綿布は、農業会から交付を受けた物の一部であり、被告人以外の他人の所有に属することは判文上明らかである。所有者の具体的氏名等を特定せずとも、自己の占有する「他人の物」を領得した事実に変わりはないため、横領罪の成立に影響しない。
結論
法令上認められない役職であっても実質的に業務を遂行していれば業務上横領罪は成立し、また目的物の所有者を具体的に特定せずとも「他人の物」であることが示されていれば横領罪を構成する。
実務上の射程
法令上の権限がない自称の役職者や事実上の事務担当者であっても、反復継続して事務を行う地位にあれば業務性が肯定されることを示した。答案上、所有者の特定が困難な事案(本件のような混合物や複雑な流通経路を辿る物)であっても、「自己の所有物でないこと」を認定すれば足りるというロジックで活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)2778 / 裁判年月日: 昭和25年7月11日 / 結論: 棄却
書類の取寄決定は、書類についての證據調決定とはおのずから異るのであつて、取寄決定をしながら取寄せた書類について證據調をしなかつたとて、證據調の決定を施行しなかつたものとはいえない。殊に本件においては、右昭和二二年度食糧調整委員會帳簿は原判決が證據として引用しなかつだものであり、なお取寄せられた右書類は記録にとじ込まれて…