書類の取寄決定は、書類についての證據調決定とはおのずから異るのであつて、取寄決定をしながら取寄せた書類について證據調をしなかつたとて、證據調の決定を施行しなかつたものとはいえない。殊に本件においては、右昭和二二年度食糧調整委員會帳簿は原判決が證據として引用しなかつだものであり、なお取寄せられた右書類は記録にとじ込まれてあつて辯護人が閲覧し得る状態にあつたにもかかわず辯護人はそれについて證據調を申請せず、かつまた原審はこれと同内容の「A村食糧調整委員會會議録」について證據調をしているのであるから、原審が取寄せた書類を法廷で展示しなかつたことが訴訟手續上の瑕疵であつたとしても、それが原判決に影響を及ぼさなかつたことは明らかであつて論旨は理由ない。
取寄決定により取寄せた書類について證據調の要否
舊刑訴法342條,舊刑訴法410条13項
判旨
業務上横領罪における不法領得の意思は、受配資格のない自己または第三者に物品を分配する目的で、委託の趣旨に反してこれを行う認識があれば認められる。また、保管中の物資の所有権が委託者にある限り、たとえ被告人が端数量の処理について一定の裁量があると誤信していても、権限踰越の認識があれば犯意は否定されない。
問題の所在(論点)
1. 配給物資の所有権が農業会に帰属し、「他人の物」という要件を欠くのではないか。2. 受配資格のない者に分配する行為に「不法領得の意思(犯意)」が認められるか。
規範
刑法253条の業務上横領罪が成立するためには、業務上占有する他人の物を、不法に領得する意思をもって処分することが必要である。不法領得の意思とは、委託の任務に背いて、所有者でなければできないような処分をする意思をいう。配給物資の保管者が、受配資格のない者へ分配する行為は、委託の趣旨に反して自己または第三者に物資を領得させる認識がある限り、同罪の犯意を構成する。
重要事実
被告人Bは栃木県A村の農業会長として、県から米穀割当超過供出者へ配給すべき報奨用生活必需物資の保管・配分を委託されていた。被告人は、共謀の上、受配資格のない自己や他人にこれらの物資をほしいままに配分した。弁護人は、配分した物資が「端数量(余り)」であり、被告人はこれを受配資格者以外に分配できると信じていたため犯意がないと主張し、また当該物資は農業会の所有に属するため横領罪は成立しないと主張して上告した。
あてはめ
1. 本件物資は、農業会長が県から特定の供出者への配給のために保管を委託されたものであり、農業会が代金を一括立替払したとしても、直ちに所有権が農業会に移転するわけではない。原審が「他人の物」であると確定した認定に不合理はない。2. 被告人は、たとえ対象が端数量であっても、受配資格のない者へ分配してはならない物であること、および自己の配分行為が権限を越えるものであることを認識していた。受配資格のない自己や第三者に物品を領得させる認識がある以上、不法領得の意思は肯定される。被告人の供述や証拠から、委託の趣旨に反する認識は明白である。
結論
被告人の行為は業務上横領罪を構成する。被告人に不法領得の意思がなかったとする主張や、物資が自己の所属団体の所有物であるとする主張は採用できず、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、公的な配給業務に伴う保管物資の横領に関するものである。行政上の指針(特配要綱等)により使途が厳格に定められている場合、保管者に事実上の処理権限が一部あったとしても、その趣旨に反して資格外の者に利得させる行為は、業務上横領罪の「不法領得の意思」を基礎付ける重要な考慮要素となる。答案上は、委託の趣旨(目的)と処分の態様を対比させ、所有者でなければなし得ない処分といえるかを論じる際の指標となる。
事件番号: 昭和23(れ)1412 / 裁判年月日: 昭和24年3月8日 / 結論: 棄却
一 横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき權限がないのに所有者でなければできないような處分をする意思をいうのであつて必ずしも占有者が自己の利益取得を意圖することを必要とするものではなく、又占有者において不法に處分したものを後日に補顛する意思が行爲當時にあつたからとて横…