横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは他人の物の占有者が委託の任務に背いてその物につき権限がないのに所有者でなければならないような処分をする意思をいうのであつて、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではない(判例集三巻三号二七六頁以下参照)。しかるところ、所論原審認定の事実によれば、被告人等は共謀して栃木県庁から判示のとおり指定救助者にかぎり給与すべき旨の指示を受けて配布された判示救助物資を、業務上保管中敢えて、右県の指示に違背し、何等の権限もなく指定救助者以外のものに給与したことに帰するのであるから被告人等に不法領得の意思なしということはできない。
横領罪につき不法領得の意思ある例―業務上保管中の救助物資を指定救助者以外のものに給与した場合
刑法253条
判旨
横領罪における不法領得の意思とは、委託の任務に背いて権限なく所有者でなければできない処分をする意思をいい、自己の利益を図る目的は必ずしも必要ではない。したがって、配布先が限定された救助物資を、権限なく対象外の者に配布する行為には不法領得の意思が認められる。
問題の所在(論点)
横領罪における「不法領得の意思」の定義、および自己の利益を図る目的(得利意思)がその成立に不可欠であるか。また、限定された対象者以外への配布行為が「所有者でなければできないような処分」に該当するか。
規範
横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の物の占有者が、委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいう。この意思は、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要としない。
重要事実
栃木県庁は、指定救助者に限って給与すべき旨の指示を付して、被告人等に対し救助物資を配布した。町助役らである被告人等は、当該物資を業務上保管していたが、共謀の上、県の指示に違背して何らの権限もないのに、指定救助者以外の者に対して当該物資を給与した。
あてはめ
被告人等は県の指示に背き、本来給与されるべき指定救助者以外の者に物資を配布している。これは、委託の任務に背く行為であるとともに、物の処分配分権という所有者にのみ認められる権限を無断で行使したものといえる。自己の利益取得を図る意図が認められないとしても、所有者でなければできないような処分をする意思(処分意思)が認められる以上、不法領得の意思に欠けるところはない。
結論
被告人等には不法領得の意思が認められ、業務上横領罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、不法領得の意思における「得利意思」の要否を否定し、「処分意思」のみで足りることを明確にしたものである。答案上では、被告人が自己の利益のためではなく第三者のためや、公益的(に見える)目的で物を処分した場合でも、委託の趣旨に反する処分の態様を捉えて横領罪を構成させる際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和26(れ)240 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪における不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思を指す。この意思は必ずしも自己の利益収得を意図することを必要とせず、自己の物として領得・処分する意思に限定されない。 第1 事案の概要:村長である被告人が、職務上保管し…