第一審判決の認定した事実によれば、被告人は福井縣高志地方事務所雇として同所経済課配給係に勤務し、同係主任Aの指揮監督の下にその義務上保管にかかる衣料切符用紙を判示のとおり擅に処分したというのである。すなわち被告人は主任Aの「補助として」判示業務に従事していたのであるが、所論のように単に「事実上其の手伝をしているに過ぎない」ものではなく、所論の衣料切符用紙も主任Aとは独立してその責任において業務上保管していたとの事実を認定しているのである。されば論旨は判例違反の主張をするけれども、被告人が所論衣料切符用紙を自ら占有保管していなかつたことを前提とするものであり、原判示に副わない主張をなすものでなければ、原審の事実認定を非難するに帰着し刑訴第四〇五条所定の上告適法の理由に該当しない。
原判決の趣旨に副わない事実を前提とする判例違反の主張と上告の適否
刑法253条,刑訴法405条2号3号
判旨
補助的地位にある公務員であっても、上司の指揮監督下で独立して物品を責任をもって保管している場合には、刑法253条の「業務上自己の占有する他人の物」にあたり、これを恣意的に処分すれば業務上横領罪が成立する。
問題の所在(論点)
上司の指揮監督下で「補助として」業務に従事する者が、上司とは独立して財物を管理・保管している場合に、業務上横領罪(刑法253条)における「業務上自己の占有する」ものといえるか。
規範
横領罪における「占有」とは、財物に対する事実上または法律上の支配を指し、補助的な立場にある者であっても、特定の財物について上司から独立して事実上の管理・支配を委ねられ、その責任において保管していると認められる場合には、業務上の占有が認められる。
重要事実
被告人は福井県高志地方事務所の経済課配給係に勤務する雇員であり、係主任の指揮監督下で衣料切符用紙の配給業務に従事していた。被告人は主任の補助として勤務していたが、当該衣料切符用紙については主任から独立して自らの責任において業務上保管していたところ、これらを恣意的に処分した。
あてはめ
被告人は単に事実上の手伝いをしているに過ぎない者ではなく、主任の指揮監督下にありながらも、問題となった衣料切符用紙については「主任とは独立してその責任において業務上保管」していた。このように、特定の事務範囲において財物の管理主体としての地位が認められる以上、補助者という形式的地位にかかわらず、当該財物に対する業務上の占有が認められる。したがって、これを擅に処分する行為は、自己の占有する他人の物を不法に領得する行為に他ならない。
結論
被告人は業務上自己の占有する他人の物を横領したものといえ、業務上横領罪が成立する。
実務上の射程
上下関係のある組織内での占有の帰属が問題となる事案に射程が及ぶ。形式的な職位(補助者・部下)のみで占有を否定せず、実質的な管理責任の有無や独立した処分の可能性を重視して占有を肯定する判断枠組みとして有用である。
事件番号: 昭和28(あ)386 / 裁判年月日: 昭和29年6月22日 / 結論: 棄却
一 論旨第一点引用の判例は、郵便物を開披して在中の小為替証書を取出した事実を窃盗としたものであり、本件は郵便物そのものを全部領得したものであるから右判例は本件に適切でない。 二 論旨第二点及び第三点は、本件郵便物につき被告人の占有のほか郵便局長にも占有があることを前提として判例違反を主張するのであるが、原判決の是認した…