一 論旨第一点引用の判例は、郵便物を開披して在中の小為替証書を取出した事実を窃盗としたものであり、本件は郵便物そのものを全部領得したものであるから右判例は本件に適切でない。 二 論旨第二点及び第三点は、本件郵便物につき被告人の占有のほか郵便局長にも占有があることを前提として判例違反を主張するのであるが、原判決の是認した第一審判決は、被告人の占有を認定したのみで郵便局長の占有は認定していないのであるから、所論は判示にそわない事実を前提とする主張である。従つて所論の判例は本件の場合に適切でない。註。本件は業務上横領に問擬されている。
一 窃盗と業務上横領との差異 二 不適切な判例を引用した一例
刑法235条,刑法253条,刑訴法第405条3号
判旨
郵便局員等の補助者が郵便物全体を不法に領得した場合、当該補助者の占有のみが認められ、管理者の占有が及んでいないと判断される限り、業務上横領罪(刑法253条)が成立する。
問題の所在(論点)
郵便局員が業務中に取り扱う郵便物を領得した場合、当該郵便物の占有が誰に帰属するか。郵便局長の占有が認められる(窃盗罪)か、それとも郵便局員の単独占有として業務上横領罪が成立するか。
規範
刑法上の占有の有無は、物に対する事実上の支配のみならず、支配の意思や補充的な規範的要素を考慮して判断される。特に管理者の支配下にある補助者が物を取り扱う場合、管理者の占有が及んでいると解されれば窃盗罪となるが、補助者に独立した占有が認められ、かつ管理者の占有が排除されている場合には横領罪が成立する。
重要事実
被告人は郵便物を取り扱う職務に従事していたが、その業務過程において、管理する郵便局長の占有を離れ、被告人自身の占有下にあるといえる状態の郵便物(全部)を不法に領得した。弁護人は、郵便局長にも占有が認められるとして窃盗罪等の成立(判例違反)を主張したが、一審判決および原判決は、本件郵便物について被告人の占有のみを認定し、局長の占有を否定した。
あてはめ
本件において、郵便物全体を領得した行為に関し、下級審の事実認定によれば、当該郵便物は被告人の占有下にあったとされている。郵便物を開披して中身を取り出した事案(大判明44.4.10等)とは異なり、本件では郵便物そのものを全部領得している。また、郵便局長による事実上の支配(占有)が及んでいた事実は認められない。したがって、自己の占有する他人の物を領得したものとして、横領罪の成立を前提とした原判決の判断は正当である。
結論
被告人に業務上横領罪が成立するとした原判決の判断を維持し、上告を棄却する。
実務上の射程
補助者の占有か管理者の占有かを区別する際のメルクマールとなる。郵便物全体を持ち出すような態様において、下級審が補助者の単独占有を認めている場合には、窃盗罪ではなく業務上横領罪が適用されることを示唆している。
事件番号: 昭和26(あ)4331 / 裁判年月日: 昭和28年3月12日 / 結論: 棄却
貸付の権限のない公団の出納係が、業務上保管にかかる小切手金員等をほしいままに他人に流用したときは、右流用が貸付の形式をとつても不法領得の意思を実現したものであるから、業務上横領罪を構成する。