被告人が判示の所為に出でないことを期待するのは不可能であつたと解すべきであるという主張は単なる法令違反の主張に過ぎず、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
期待可能性がないことを理由とする上告の適否
刑法38条,刑訴法305条
判旨
他人の事務を処理する者が、その任務に背いて、利殖の目的なく無担保かつ無利息で第三者に資金を貸し付け、本人に損害を加えた場合は、背任罪(刑法247条)が成立する。
問題の所在(論点)
民生事業を目的とする団体の事務処理者が、利殖目的なく無担保・無利息で第三者に資金を貸し付けた行為が、刑法247条の背任罪を構成するか。
規範
背任罪の成立には、他人(本人)の事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えることが必要である。利殖の目的がなく、本人の事業目的外の用途に資金を供し、かつ回収の担保も確保しないなどの態様で貸付を行うことは、任務違背行為にあたる。
重要事実
生活扶助や授産等の民生事業を目的とする後援会の事務を処理していた被告人は、同会会長らと共謀し、同会所有の現金5万円をA株式会社の滞納税金等の資金に充てるために貸し付けた。この貸付は、利息や期限の定めがなく、かつ無担保で行われたものであった。また、この貸与によって後援会が利益を得る約束はなく、利殖を目的としたものでもなかった。
あてはめ
後援会の業務目的が民生事業であるにもかかわらず、その目的外であるA社の納税資金として資金を流用した点は、委任の本旨に反する任務違背行為といえる。また、利息や期限の定めを置かず、無担保で貸し付けたことは、資金回収の確実性を欠くものであり、本人の財産を危険にさらす行為である。さらに、利殖の目的がない以上、本人の利益を図る正当な動機も認められず、後援会に損害を与える認識(図利加害目的)も認められる。したがって、当該貸付により後援会に財産上の損害が生じたと評価される。
結論
被告人の所為は刑法247条の背任罪を構成する。
実務上の射程
本判決は、利殖目的のない無謀な融資が背任罪を構成することを明確にしたものである。答案上は、図利加害目的や任務違背の有無を論じる際、本人の設立目的や業務内容と、貸付の条件(担保、利息、期限の有無)を対比させることで、背任罪の成否を判断する際の指標として活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)2046 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】背任罪(刑法247条)における「財産上の損害」の発生は、必ずしも貸付金が回収不能に陥った事実の立証を要するものではなく、任務違背行為により財産の状態が悪化し、財産的価値が減少したと認められる場合には損害の発生が肯定される。 第1 事案の概要:被告人が、その任務に背いて不適切な貸付を行った。弁護人は…