判旨
背任罪(刑法247条)における「財産上の損害」の発生は、必ずしも貸付金が回収不能に陥った事実の立証を要するものではなく、任務違背行為により財産の状態が悪化し、財産的価値が減少したと認められる場合には損害の発生が肯定される。
問題の所在(論点)
背任罪の成立要件である「財産上の損害」について、貸付事案において貸付金が回収不能に陥った事実の立証が不可欠であるか、という点が問題となった。
規範
背任罪の成立要件である「財産上の損害」とは、本人の財産状態を全体として観察し、任務違背行為によって現に財産の減少を招いたか、または得べかりし利益を失ったことを指す。特に不正な貸付がなされた事案においては、貸付金が最終的に回収不能となったことが確定していなくても、客観的に見て当該貸付により財産的価値に減少が生じたと認められれば、損害の発生を肯定できる。
重要事実
被告人が、その任務に背いて不適切な貸付を行った。弁護人は、当該貸付金が回収不能に陥ったという事実が立証されない限り、本人に「財産上の損害」を加えたものとみなすことはできないと主張し、背任罪の成立を争った。原判決(一審・二審)は証拠に基づき、被告人に背任の故意を認めるとともに、財産上の損害が発生したことを肯定して有罪としていた。
あてはめ
本件において、原判決は証拠に基づき財産上の損害の発生を明確に認定している。弁護人が引用する大審院判例は、損害の証明がない場合に罪の成立を否定したに過ぎず、貸付金が回収不能に陥ったという事実の立証がなければ損害の発生を認められないという趣旨ではない。したがって、任務に背く貸付が行われ、その時点で本人の財産に実質的な損害が生じたと認められる以上、回収不能の確定を待たずとも「財産上の損害」の発生は認められる。
結論
被告人が任務に背いて貸付をした場合、貸付金が回収不能に陥った事実が立証されなくても、財産上の損害の発生を認定することは可能であり、背任罪が成立する。
実務上の射程
背任罪の「損害」概念が「リスクの発生」による価値減少を含むことを示唆した重要判例である。答案上では、特に金融機関の不正貸付や担保欠如の事案において、回収不能が確定する前であっても『経済的見地から見た財産的価値の減少』を根拠に損害を認定する際の論拠として使用する。
事件番号: 昭和28(あ)5086 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
控訴審が事実の取調を進めるにつれ、検察官から訴因変更の申出がある場合に、訴訟記録並びに原裁判所および控訴裁判所において取り調べた証拠によつて原判決を破棄し自判しても被告人の防禦に実質的利益を害しないと認められるようなときは、訴因変更を許すべきものである。