農林省仙台農地事務局八郎潟南部干拓建設事業所長であつた被告人が、不用物品の払下げにあたり、物品管理法(昭和四〇年法律第四一号による改正前のもの)および予算決算及び会計令(昭和三七年政令第三一四号による改正前のもの)の規定に違反し、あらかじめ不用決定等をすることなく、代金納入前に、所管の廃材を引き渡した事実があつたとしても、右代金は物件引渡の二日後に納入され、被告人が、右引渡当時、その代金支払の確実性を信じていたと認められる状況があるとき(判文参照)は、被告人に前記会計法規に違反する認識のあつたことをもつて、直ちに国に損害を加える認識もあつたものとして、背任罪が成立するものとするのは相当でない。
被告人に会計法規に違反する認識のあつたことをもつて直ちに国に損害を加える認識もあつたとして背任罪の成立を認めるのは相当でないとされた事例
刑法247条,物品管理法(昭和40年法律41号による改正前のもの)28条,予算決算及び会計令(昭和37年政令314号による改正前のもの)73条
判旨
背任罪の成立には、行為者が本人に財産上の損害を加える認識(図利加害目的を含む主観的要件)を有することが必要である。会計法規への違反が直ちに損害を加える認識を意味するわけではなく、具体的状況に基づき損害発生の認識を慎重に判断すべきである。
問題の所在(論点)
背任罪の成立要件として、財産上の損害を加える認識(加害の認識)が認められるか。特に、損害発生を防止するための会計法規に違反した認識がある場合に、直ちに損害を加える認識が認められるかが問題となる。
規範
背任罪(刑法247条)が成立するためには、未必的であるかを問わず、その行為の結果として本人に財産上の損害を加える認識が必要である。損害を防止するための会計法規に違背したとしても、その認識があることをもって、直ちに「損害を加える認識」があったと断じることはできない。
重要事実
被告人は、国の廃材をAに払い下げる際、物品管理法等に定められた不用決定の手続きを経ず、かつ代金完納前に廃材を引き渡した。これにより、国に実害発生の危険を生じさせたとして予備的訴因につき背任罪で有罪とされた。しかし、被告人はAを過去に取引実績のある会社の関係者であると信じていた。また、代金は官庁側の書類整備を待って引渡しの2日後に現実に納入されており、Aは引渡し時に代金充当目的で10万円を別途預託してもいた。
あてはめ
本件において、被告人は代金が書類整備後に直ちに支払われると信じており、実際に引渡し2日後には完納されていた。また、代金に充当する趣旨で金員が預託されていた事実もある。このような具体的状況下では、被告人は国に財産上の損害を与えないと信じていたと推認できる。したがって、たとえ手続的な会計法規に違背する認識があったとしても、それだけで直ちに本人である国に損害を加える認識があったと認めることは相当ではない。
結論
被告人に財産上の損害を加える認識があったとは認められず、背任罪は成立しない。原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
本判決は、任務違背行為(会計法規違反)の認識と、背任罪における図利加害目的・損害の認識を区別する。事務処理の適正を欠く形式的違反があっても、実質的に本人に損害を与えないと信じていた場合には、背任罪の故意(加害の認識)が否定されることを示しており、主観的要件の厳格な認定を求める際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和29(あ)2046 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】背任罪(刑法247条)における「財産上の損害」の発生は、必ずしも貸付金が回収不能に陥った事実の立証を要するものではなく、任務違背行為により財産の状態が悪化し、財産的価値が減少したと認められる場合には損害の発生が肯定される。 第1 事案の概要:被告人が、その任務に背いて不適切な貸付を行った。弁護人は…
事件番号: 平成17(あ)246 / 裁判年月日: 平成21年3月16日 / 結論: 棄却
防衛庁調達実施本部副本部長等の職にあった者が,在職中に私企業の幹部から請託を受けて職務上不正な行為をし,その後間もなく防衛庁を退職して上記私企業の関連会社の非常勤の顧問となり顧問料として金員の供与を受けたなどの本件事実関係の下においては,顧問としての実態が全くなかったとはいえないとしても,供与を受けた金員は不正な行為と…