判旨
手形を振り出した会社が、その手形の所持人に対して支払義務を負う場合、当該手形に関する行為は詐欺罪等の財産犯における「財産上の利益」の移転や損害の発生を基礎付け得る。
問題の所在(論点)
手形の振出会社が所持人に対して支払義務を負うか、およびその義務の存在が刑法上の財産犯の成否にどのように影響するか。
規範
刑法上の財産犯(特に詐欺罪等)における財産的損害の有無を判断するにあたっては、経済的側面のみならず、法的な権利義務関係の存否を重視すべきである。手形振出人が所持人に対して法的な支払義務を負う以上、その振出行為等は財産的価値を有する行為として評価される。
重要事実
被告人が会社の名義で手形を振り出した事案において、弁護人は「手形の振出会社は所持人に対して支払義務を負わない」と主張して上告した。しかし、判決文からは具体的な手形振出の経緯や欺罔行為の詳細、被害者の属性などの具体的な事実関係は不明である。
あてはめ
弁護人は、手形を振り出した会社が所持人に対して支払義務を負わないことを前提に無罪を主張したが、本判決はこれを否定した。所論のような事実関係があったとしても、振出会社は所持人に対して支払義務を免れるものではないと解される。したがって、支払義務が存在することを前提とした原判決の判断に誤りはない。
結論
手形の振出会社は所持人に対して支払義務を負う。そのため、支払義務がないことを前提とする上告趣意は採用できず、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、手形の振出が財産罪(詐欺罪や背任罪)の構成要件である「財産上の利益」や「損害」に該当するかを検討する際の前提となる。会社名義での手形発行がなされた場合、会社が善意の第三者等に対して支払義務を免れない以上、実質的な財産的損害が発生したものとして答案を構成する際の根拠となる。
事件番号: 昭和27(あ)5855 / 裁判年月日: 昭和29年3月30日 / 結論: 棄却
論旨援用の判例(大審院大正三年十〇月一六日刑録二〇輯一八六七頁)は、「本人に損害を加えたる場合においても」「若しその目的にして本人の利益を図るに在りとすれば」背任罪は成立しないというのである。しかるに原判決は、被告人の「所論保障はその主要な目的が直接本人たるA銀行のためでなくして(A銀行の利益をも無視したものではないと…