株式を目的とする質権の設定者が,質入れした株券について虚偽の申立てにより除権判決を得て株券を失効させ,質権者に損害を加えた場合には,背任罪が成立する。
質権設定者が質入れした株券につき除権判決を得て失効させ質権者に損害を加えた場合と背任罪の成否
刑法247条,商法207条,商法(平成14年法律第44号による改正前のもの)230条,公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律769条
判旨
株式の質権設定者は、債務完済まで当該株式の担保価値を保全すべき任務を負い、虚偽の申立てにより除権判決を得て株券を失効させる行為は、背任罪を構成する。
問題の所在(論点)
株式の質権設定者が、質権者に交付した株券について虚偽の申立てにより除権判決を得て失効させる行為が、刑法247条の背任罪における「他人のためにその事務を処理する者」による任務違背行為に当たるか。
規範
刑法247条の「他人のためにその事務を処理する者」とは、信任関係に基づき、他人の財産を保護・管理する事務を処理する者をいう。株式の質権設定者は、質権者に株券を交付した後も、債務の完済があるまでは当該株式の担保価値を保全すべき義務を負い、これは除権判決を得て株券を失効させてはならないという不作為の任務を含む「他人の事務」に該当する。
重要事実
被告人は、A社の代表取締役として、B社から1億1800万円の融資を受ける際、担保としてA社所有の株券をB社に交付して質権を設定した。しかし、返済期経過後も債務を履行せず、A社の利益を図る目的で、株券を紛失したという虚偽の理由により除権判決を申し立ててこれを得た。これにより、B社に交付済みの株券を失効させ、質権者であるB社に財産上の損害を与えた。
あてはめ
被告人は質権設定者として、融資金の返済までは質権者のために株式の担保価値を保全すべき任務を負っていた。それにもかかわらず、自己が代表を務めるA社の利益を図る目的で、虚偽の理由により除権判決を得るという、担保価値を損なう任務違背行為に及んでいる。除権判決により株券を失効させたことは、質権者B社の担保権を実質的に消滅させるものであり、財産上の損害を加えたといえる。
結論
被告人は「他人のためにその事務を処理する者」に当たり、質入れした株券を虚偽の申立てで失効させる行為は背任罪を構成する。
実務上の射程
担保権設定者が担保目的物の価値を維持・保全する義務が「他人の事務」に含まれることを明示した判例である。不動産抵当権における二重登記等と同様、動産・証券の質権においても設定者の保全義務を認める文脈で活用すべきである。
事件番号: 平成14(あ)1431 / 裁判年月日: 平成17年10月7日 / 結論: 棄却
甲商社から巨額の融資を受けていた不動産会社のオーナー経営者乙が,甲社の不動産開発等の業務を担当する理事兼企画監理本部長に就任し,甲社社長の指揮命令に服しながら,対外的法律行為に関する包括的代理権の行使を含め,甲社の企業活動の一端を継続的かつ従属的に担っていたなど判示の事実関係の下においては,乙は,甲社から給与等の支給を…