甲商社から巨額の融資を受けていた不動産会社のオーナー経営者乙が,甲社の不動産開発等の業務を担当する理事兼企画監理本部長に就任し,甲社社長の指揮命令に服しながら,対外的法律行為に関する包括的代理権の行使を含め,甲社の企業活動の一端を継続的かつ従属的に担っていたなど判示の事実関係の下においては,乙は,甲社から給与等の支給を受けていなかったとしても,商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項にいう「営業ニ関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人」に当たる。
商社の理事兼企画監理本部長が同社から給与等の支給を受けていなくても商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項にいう「営業ニ関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人」に当たるとされた事例
商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項
判旨
取締役等でない者であっても、特定の業務に関し実質的に法人を支配・管理する地位にあり、かつ、法人の利益を保護すべき義務を負う者は、刑法247条の「他人の事務を処理する者」に当たる。法人内で特定の権限を実質的に掌握している場合、形式的な役職の有無にかかわらず背任罪の主体となり得る。
問題の所在(論点)
取締役等の役員に準ずる法的地位にない「嘱託」や「外部から招聘された者」であっても、法人の事務を処理する者として背任罪の主体(刑法247条)となり得るか。
規範
刑法247条にいう「他人の事務を処理する者」とは、他人のためにその事務を執行する義務を負う者を指す。法人の組織において、形式的には取締役等の役員でなくとも、特定のプロジェクトや業務部門について、法人の決定に実質的な影響力を及ぼし、その事務を管理・支配する立場にある者は、法人の利益を保護すべき誠実義務を負うため、同条の主体に含まれる。
重要事実
事件番号: 平成14(あ)1431 / 裁判年月日: 平成17年10月7日 / 結論: 棄却
商社の代表取締役社長がその任務に違背して巨額の融資を行った場合において,融資実行の動機は同社の利益よりも自己らの利益を図ることにあり,同社に損害を加えることの認識,認容もあったなど判示の事実関係の下では,特別背任罪における図利目的はもとより加害目的をも認めることができる。
被告人は、イトマン(被害者)の経営再建に関連し、同社のプロジェクトを主導する「常務理事」および「地上げ管理本部副本部長」という、登記上・法規上の取締役ではない役職に就いた。しかし、実際には同社の巨額の資金が投入されるプロジェクトの推進・管理を任され、事実上、地上げ業務等の核心的な事務を掌握していた。また、同社の取締役会等へ出席して意見を述べるなど、法人の意思決定に深く関与する立場にあった。この立場を利用し、被告人は法人の利益に反する形で不正な資金移動を行い、被害者に損害を与えた。
あてはめ
被告人は形式的には「顧問」や「常務理事」といった非役員の地位にあったが、実態としてはイトマンの重要な資金運用プロジェクトの推進を実質的に指揮・監督する地位にあった。法人の意思決定に直接関与し、巨額の資金使途を差配する権限を実質的に有していた以上、被告人はイトマンに対し、その事務を適切に処理して損害を回避すべき信認関係上の義務を負っていたといえる。したがって、被告人の地位は単なる補助者にとどまらず、法人の事務を独立して処理する権能を有する者に準ずる評価が可能である。
結論
被告人は、形式的な役職にかかわらず、実質的に法人の事務を支配・管理する立場にあったことから、「他人の事務を処理する者」に該当する。
実務上の射程
本判決は、背任罪の主体である「事務処理者」の判断において実質説を採用した。司法試験においては、名目的取締役や実質的経営者の事案で、事務の性質・内容や法人の支配実態を検討し、信認関係の有無を導く際の有力な根拠となる。内部統制やガバナンスが欠如した企業不祥事案での検討に適している。
事件番号: 平成11(あ)941 / 裁判年月日: 平成15年3月18日 / 結論: 棄却
株式を目的とする質権の設定者が,質入れした株券について虚偽の申立てにより除権判決を得て株券を失効させ,質権者に損害を加えた場合には,背任罪が成立する。
事件番号: 平成14(あ)1164 / 裁判年月日: 平成15年10月6日 / 結論: 棄却
正規の国際運転免許証に酷似する文書をその発給権限のない団体Aの名義で作成した行為は,上記文書が,一般人をして,その発給権限を有する団体であるAにより作成された正規の国際運転免許証であると信用させるに足りるものであるなど判示の事実関係の下では,団体Aから上記文書の作成を委託されていたとしても,私文書偽造罪に当たる。
事件番号: 平成25(あ)1676 / 裁判年月日: 平成27年4月8日 / 結論: 棄却
1 金融商品取引法(平成20年法律第65号による改正前のもの)166条1項1号にいう「役員,代理人,使用人その他の従業者」とは,上場会社等の役員,代理人,使用人のほか,現実に当該上場会社等の業務に従事している者を意味し,当該上場会社等との委任,雇用契約等に基づいて職務に従事する義務の有無や形式上の地位・呼称のいかんを問…