商社の代表取締役社長がその任務に違背して巨額の融資を行った場合において,融資実行の動機は同社の利益よりも自己らの利益を図ることにあり,同社に損害を加えることの認識,認容もあったなど判示の事実関係の下では,特別背任罪における図利目的はもとより加害目的をも認めることができる。
商社の代表取締役社長が行った巨額の融資につき特別背任罪における加害目的が認められた事例
商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項,刑法247条
判旨
取締役が、自己または第三者の利益を図る目的で、実質的な価値を欠く土地や権利を不当に高額で買い受けさせるなど、会社に損害を与える行為を行った場合、会社に対する善管注意義務および忠実義務に違反し、特別背任罪が成立し得る。
問題の所在(論点)
経営危機回避のために利益を捻出する必要があったという事情がある場合に、実質的価値のない資産を高額で購入する行為が、取締役の任務違背行為および特別背任罪における「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的」に該当するか。
規範
取締役がその任務に背く行為(任務違背行為)をしたといえるかは、当該行為が会社にとって合理的な経営上の判断に基づくものか否かによって決せられる。自己または第三者の利益を図り会社に損害を与える目的(図利加害目的)が認められ、かつ、客観的に見て取引条件が著しく不当で会社に財産上の損害を与えた場合には、取締役としての任務違背が認められ、特別背任罪(商法旧法下の規定、現行会社法960条1項)が成立する。
重要事実
被告人は商社(イトマン)の社長として、資金繰りが悪化し経営危機に瀕していた。メインバンクからの支援を継続させるため、当期利益の計上が至上命令となっていた。そこで被告人は、知人が営むゴルフ場開発会社(A社)から、実質的な価値が極めて低く、開発の見込みも乏しい土地の共有持分やゴルフ場経営権等を、総額約232億円という不当に高額な価格で買い受ける決定をした。この取引は、A社がイトマンから得た代金の一部をイトマン側へ還流させることで、帳簿上の利益を捻出することを目的としていた。
事件番号: 平成15(あ)59 / 裁判年月日: 平成17年10月7日 / 結論: 棄却
甲社の絵画等購入担当者である乙らが,丙の依頼を受けて,甲社をして丙が支配する丁社から多数の絵画等を著しく不当な高額で購入させ,甲社に損害を生じさせた場合において,その取引の中心となった甲と丙の間に,それぞれが支配する会社の経営がひっ迫した状況にある中,互いに無担保で数十億円単位の融資をし合い,各支配に係る会社を維持して…
あてはめ
被告人の行為は、イトマンの当期利益を操作し、自身の社長の地位を維持する等の自己または第三者(A社)の利益を図る目的があったと認められる。取引の内容も、客観的な価値を無視した著しく不当な高額買い取りであり、イトマンに多額の出金を強いて損害を与えた事実は明らかである。このような、実体の伴わない利益捻出のための不当な資産取得は、経営判断の裁量を逸脱した任務違背行為といえる。
結論
被告人の行為は特別背任罪の構成要件を充足し、有罪とする原判決は正当である。
実務上の射程
経営判断の原則が適用される場面であっても、実体的な価値を欠く資産の取得や、帳簿上の利益を偽装するための不当な取引は、裁量の範囲外として任務違背が認められやすい。特に、自己の地位保全や第三者への利益供与が主目的である場合は、図利加害目的が肯定される重要な要素となる。
事件番号: 平成8(あ)267 / 裁判年月日: 平成14年3月15日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】業務上横領罪における不法領得の意思の成否において、支出行為やその目的が違法であるなどの理由から委託者たる会社自身が行い得ない性質のものであっても、そのことのみから直ちに行為者に不法領得の意思を認めることはできない。 第1 事案の概要:B社の経理部次長である被告人は、同社経理部長Cと共謀し、Dによる…
事件番号: 平成8(あ)267 / 裁判年月日: 平成13年11月5日 / 結論: 棄却
株式会社の取締役経理部長が会社の株式の買占めに対抗するための工作費用として会社の資金を第三者に交付した場合において,会社の不利益を回避する意図を有していたとしても,交付金額が高額であるなど交付行為が会社にとって重大な経済的負担を伴い,違法行為を目的とするものとされるおそれもあったのに,交付の相手方や工作の具体的内容等に…
事件番号: 平成14(あ)1431 / 裁判年月日: 平成17年10月7日 / 結論: 棄却
甲商社から巨額の融資を受けていた不動産会社のオーナー経営者乙が,甲社の不動産開発等の業務を担当する理事兼企画監理本部長に就任し,甲社社長の指揮命令に服しながら,対外的法律行為に関する包括的代理権の行使を含め,甲社の企業活動の一端を継続的かつ従属的に担っていたなど判示の事実関係の下においては,乙は,甲社から給与等の支給を…
事件番号: 平成6(あ)544 / 裁判年月日: 平成9年10月28日 / 結論: 棄却
百貨店の代表取締役は、商品の仕入れに当たり、仕入原価をできる限り廉価にするなど仕入れに伴う無用な支出を避けるべき任務を負うものであり、特定の業者の利益を図る目的をもって、右任務に背いて右業務を納入業者と百貨店との間に介在させて差益を取得させ、それと同額の損害を百貨店に与えた本件においては、右代表取締役には特別背任罪が成…