業務上横領罪における不法領得の意思を肯定した控訴審判決が審理不尽,事実誤認の疑いなどにより破棄された事例
刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)253条,刑訴法411条1号,刑訴法411条3号
判旨
業務上横領罪における不法領得の意思の成否において、支出行為やその目的が違法であるなどの理由から委託者たる会社自身が行い得ない性質のものであっても、そのことのみから直ちに行為者に不法領得の意思を認めることはできない。
問題の所在(論点)
会社の資金を違法な目的(名誉毀損や自己株式取得禁止違反等)のために支出した場合、その行為が「委託者(会社)自身もなし得ない性質のもの」であることを理由に、直ちに業務上横領罪の不法領得の意思を肯定できるか。
規範
業務上横領罪における「不法領得の意思」とは、自己若しくは第三者の利得を図る目的で、委託の趣旨に反して、権限がないのに所有者でなければできない処分をする意思をいう。行為の意図が専ら委託者(会社)のためにするものであれば、不法領得の意思は否定される。なお、当該行為やその目的が違法であり、委託者自身もなし得ない性質のものであったとしても、その一事のみをもって直ちに不法領得の意思を肯定することはできない。
重要事実
B社の経理部次長である被告人は、同社経理部長Cと共謀し、Dによる自社株買占めを阻止するため、工作員Gらに対し、B社の資金計11億7500万円を交付した(本件交付)。本件交付は、Dへの圧力等の工作資金や、最終的には商法の自己株式取得禁止規定に抵触する態様での株買取りを目的とするものであった。Cには自己の弱み(過去のDとの通謀等)を隠す個人的な動機があったが、被告人は当初その事実を知らず、Cから社長の了承を得ているとの説明を受けていた。また、被告人にはB社の乗っ取りによる信用低下等の不利益を回避する意図もあった。
あてはめ
事件番号: 平成8(あ)267 / 裁判年月日: 平成13年11月5日 / 結論: 棄却
株式会社の取締役経理部長が会社の株式の買占めに対抗するための工作費用として会社の資金を第三者に交付した場合において,会社の不利益を回避する意図を有していたとしても,交付金額が高額であるなど交付行為が会社にとって重大な経済的負担を伴い,違法行為を目的とするものとされるおそれもあったのに,交付の相手方や工作の具体的内容等に…
不法領得の意思の有無は、被告人固有の利己的目的や、他者の不法領得の意思の認識・認容の有無から慎重に判断すべきである。本件において、本件交付が自己株式取得禁止規定に違反し、また工作手段が犯罪に触れかねないものであったとしても、その違法性のみから直ちに不法領得の意思は導かれない。被告人の主観をみると、上司であるCの指示に従い、社長の了承があるものと信じていた事情や、会社の不利益を回避する意図を有していたことが認められる。そうであれば、少なくともある段階までは「専ら会社のために行う正当な支出」であると認識していた余地があり、被告人固有の自己保身等の利己的目的が認められない限り、不法領得の意思を肯定することはできない。
結論
被告人の不法領得の意思を肯定した原判決には、法律の解釈を誤り、審理を尽くさなかった違法がある。したがって、原判決を破棄し、本件を差し戻す。
実務上の射程
横領罪の不法領得の意思に関し、使途の違法性が直ちに領得意思を基礎付けるものではないことを明示した射程の長い判例である。答案上は、まず「専ら本人のため」という目的の有無を検討し、その際、行為自体の違法性に引きずられすぎず、被告人の具体的認識(会社のためという主観的正当化の余地)を丁寧に拾う必要がある。
事件番号: 昭和27(あ)3372 / 裁判年月日: 昭和28年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】会社の資金を自己の名義で他人に貸し付ける行為は、会社のためにする意思がなく自己の利益を図る目的で行われた場合、業務上横領罪の不法領得の意思が認められる。 第1 事案の概要:被告人は、会社資金を管理する立場にありながら、当該資金を流用し、会社の名義ではなく自己の名義をもって他人に金融(貸し付け)を行…